グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

展覧会「ワールド・クラスルーム」01

森美術館開館20周年記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」を観てきました。展覧会のタイトルには、現代アートの国語・算数・理科・社会とありますが、会場は「国語」、「社会」、「哲学」、「算数」、「理科」、「音楽」、「体育」、「総合」の8つのセクションで構成されています。

展示されている作品は、それぞれのセクションにふさわしいものが集められており、社会問題を扱った作品や問題提起をする作品など、現代アートが持つ多くの問いを投げかけています。会場で一つ一つの作品と向き合い、考えを巡らせる貴重な体験となりました。また、展示作品の半数以上が森美術館のコレクションであり、森美術館だからこそ実現した展覧会と言えます。

展覧会「ワールド・クラスルーム」02
国語のセクションの、ワン・チンソン(王慶松)の
『フォロー・ミー(Follow Me)』(2003年)
今回の展覧会のメインビジュアルとして使われています。
実物は思っていたより小さな作品でした。


印象に残る作品は多数ありましたが、職業柄面白いと思ったのが、社会のセクションの「ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト(Jakarta Wasted Artists)」による作品、『グラフィック・エクスチェンジ(Graphic Exchange)』です。
本作はジャカルタを拠点に活動する4名のクリエイターから成る「ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト」のプロジェクトで、商店や事業者などの看板を譲り受け、代わりに新しい看板のデザインと制作を請け負うというものです。

展覧会「ワールド・クラスルーム」03
実際に譲り受けた看板37枚(2015年)

展覧会「ワールド・クラスルーム」04
交渉の様子などを納めた記録映像(2015年)


このプロジェクトに賛同する事でクライアントは自分達の要望に適った新しい看板を手に入れる事ができます。そしてアーティスト側にとっては作品として発表するだけでなく、ビジュアル・ヒストリーとしてアーカイブすることができる非常に意味のあるプロジェクトとなっています。この作品は、商業的な看板をアートに変換することで、都市空間やコミュニティに新たな価値を与える試みだと思いました。


展覧会「ワールド・クラスルーム」05
哲学のセクションの、李禹煥(リ・ウファン)の
『対話』(2017年)と『関係項』(1968/2019年)
『関係項』は、重ねられた鉄板とガラス板の上に石が置かれている作品です。
人工素材と自然素材を用いて、異なる要素が出来事として関係し合う様子を現しています。
近年の作品なので、昨今の社会情勢と重ね合わせて考えずにはいられませんでした。


展覧会「ワールド・クラスルーム」06

「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」は、森美術館にて2023年9月24日(日)まで開催されています。


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「ヘザウィック・スタジオ展」01

「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」を観てきました。
ロンドンで設立されたデザイン集団、ヘザウィック・スタジオの日本初の展覧会です。

以下の6つのセクションで構成されていて、それぞれのセクションは独自のテーマを持ち、特定の要素を展示しています。
 
1. ひとつになる
2. みんなとつながる
3. 彫刻的空間を体感する
4. 都市空間で自然を感じる
5. 記憶を未来へつなげる
6. 遊ぶ、使う

この展覧会では、ヘザウィック・スタジオの主要プロジェクト28件が展示されていました。スタジオのデザインは、自然界のエネルギーや建築物の記憶を取り入れつつ、都市計画のような大規模プロジェクトでも「ヒューマン・スケール(wellbeing)」を重視しています。 


「ヘザウィック・スタジオ展」02
電気自動車のコンセプトカー「エアロ」


「ヘザウィック・スタジオ展」03
2021年に完成した「サウザンド・ツリーズ」(上海)の展示風景
 

「ヘザウィック・スタジオ展」04
椅子「スパン」。会場では実際に座ることができます。


ヘザウィック・スタジオのデザインの原点は、「魂がこもった建築(building soulful)」であり、人々が集い、対話し、楽しむための空間を創造することにあります。彼らは、ミース・ファン・デル・ローエの「レス・イズ・モア」(少ない方が豊か)という考え方に異を唱え、装飾やデザインではなく、忘れがたい造形や細部の仕上げ、質感ある素材を通じて共感される建築を目指してきました。

モダニズム建築は、機能性や合理性を重視しシンプルで直線的なデザインが特徴です。一方、ポストモダン建築はデザイン性や装飾性を重視し、曲線的な形状や個性的なデザインが多く見られます。この対比についても非常に多くのことを考えさせられる展覧会でした。
 
「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」は、東京・六本木の東京シティビューにて2023年6月4日(日)まで開催されています。


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「The Street Sliders “Hello!!”」日本武道館

2023年5月3日、日本武道館でのストリート・スライダーズのライブを観てきました。
 
2000年10月29日の「LAST LIVE」から22年ぶりの再集結で、デビューから40年、解散から22年という年月が感慨深いです。

当時も今も、日本でこのようなグルーヴを出せるバンドは稀有な存在です。久しぶりに観ても、それぞれの音が際立ち、本当に良いバンドだと改めて感じました。

以下、自分用のメモとしてセットリストを残しておきます。

●2023年5月3日(祝・水) @日本武道館 
 「The Street Sliders “Hello!!”」セットリスト 
 01. チャンドラー
 02. BABY BLUE
 03. Angel Duster
 04. Let's go down the street
 05. one day
 06. すれちがい
 07. Pace Maker
 08. ありったけのコイン
 09. 曇った空に光放ち(新曲)
 10. ミッドナイト・アワー(新曲)
 11. 天国列車
 12. Hello Old Friends
 13. So Heavy
 14. Back To Back
 15. 風の街に生まれ
<アンコール>
 16. のら犬にさえなれない
 17. TOKYO JUNK

これが本当の「LAST LIVE」かと思っていましたが、ライブの最後に秋のツアーも発表されました。


◆ライブ開演前の会場BGM
 (わかったものだけ)
 01. Rockin’ the Blues Away - Original Mix / Tiny Grimes
 02. Midnight Blue / King Curtis
 03. Try It Baby / Detroit Soul Ensemble
 04. Slow Drag / King Curtis
 05. Bluesology / The Modern Jazz Quartet
 06. Campus Cookie / Chuck Berry
 07. San-Ho-Zay / Freddie King
 08. After Hours / Jimmy Nolen


 【関連URL】 


ryuichi sakamoto『out of noise』

NowPlaying “aqua” - Ryuichi Sakamoto
January 17 1952 - March 28 2023
坂本龍一さん R.I.P.
 
 

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』01

ブレット・モーゲン監督・製作・編集のドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』を観てきました。

モーゲン監督は、デヴィッド・ボウイ財団が保有する膨大な映像にアクセスすることを許され、全ての映像を見るために2年もの歳月を費やしています。そして、その中から貴重な映像を厳選し、40曲にわたるボウイの名曲で構成された映画を作り上げました。音楽プロデュースはボウイの楽曲をプロデュースしてきたトニー・ヴィスコンティが手がけ、音響は映画『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞を受賞したポール・マッセイが担当しています。

本作はただのドキュメンタリーではなく、変化し続けるボウイの人生、音楽やライブパフォーマンス、クリエイティブを追体験するような映像になっていました。監督の言葉によると、本作は壮大なIMAX体験となるような映画を目指しているとのことで、映像も音楽も見る者を圧倒する仕上がりになっています。しかし、当時の映像とIMAXのスクリーンでは技術的なミスマッチが生じます。そういったミスマッチや映像のクオリティを馴染ませるために監督は問題を逆手に取り、イメージヴィジュアルを挟み込みコラージュのような映像編集を施すことで現代の映像作品に必要な新たな意味を創出しました。

本作では、全編にわたってボウイのナレーションが流れます。ボウイの言葉には哲学的な要素や予見的な言葉もありそのどれもが印象的なのですが、映像と字幕を追うのが大変なので見返したくなる箇所も多くありました。予告でも使用されている「大切なのは何をするかで、時間のあるなしや、望みなんか関係ない」というボウイの核心に触れたものは特に印象に残っています。

この映画は、事実を詳細に説明するものや伝記映画ではないため、ボウイを知らない人が見ても楽しめるかどうかは正直わかりません。しかし、ファンであれば、チャレンジングな構成によって大いに楽しむことができるでしょう。IMAXで鑑賞することをおすすめします。
 

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』02
ポスターデザインには、
山本寛斎さんの衣装をまとったボウイの写真が使用されており、
鋤田正義さんが撮影を担当しています。
 

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』04
映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』03
渋谷パルコでは、映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』の公開に合わせて、デヴィッド・ボウイ公式グッズ Pop-up Storeもオープンしていました。
※期間:2023年3月3日(金)~4月9日(日)まで。





3/24 (fri) 全国公開!『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』90秒予告編 - YouTube




【ライブシーン収録】『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』本編映像 “レッツ・ダンス”【3.24(fri)公開】 - YouTube


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