グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

カテゴリ: ブックデザイン

かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと1

「かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと」を観てきました。
かこさとしさんの絵本は、『からすのパンやさん』や「だるまちゃんシリーズ」など、広く読み継がれています。この展覧会では絵本の原画や下絵が見られるだけではなく、かこさとしさんの生涯を辿る展示となっていました。

絵本の創作やブックデザインの過程を目当てに足を運びましたが、今回の展示で私が最も感銘を受けたのは絵本を描き始める前の、工学博士として昭和電工(株)で働いていた頃の作品(戦後の働く人の様子など)や、セツルメント(子供たちへのボランティア)での活動にまつわる作品でした。
これらの中には、後のかこさとし作品のコアが形作られていく過程を見ることができます。

また、戦時中に正しい判断ができなかったこと(航空士官を目指したこと)で自責の念と、「子供たちには自分で考え、正しい判断ができるようになってほしい」という思いから、様々な題材を用いた絵本が創られていくこともわかります。
その上で手に取ったことがある作品や、知らなかった作品の数々をまとめて見ることができるように設計された会場構成は効果的で、来場者に大きな意味と学びをもたらす機会を提供しています。

かこさんは33歳で絵本作家としてデビューしますが、47歳までは会社員としても働き続けていました。日曜日はボランティアで子供たちに紙芝居などをしていたので、それ以外の時間が絵本の創作に当てられていたようです。
その上で生涯に創作した絵本などは約600作品! 本当に頭が下がります。

かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと2
会場の撮影可能エリアにある『からすのパンやさん』の展示

かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと3

かこさんの代表作『からすのパンやさん』は、私が幼少期に初めて親に頼んで買ってもらった絵本です。プレゼントしたり何度か買い直したりして今も手元に置いてあります。間違いなく、私が創作に興味を持つきっかけになった思い出深い作品です。
その絵本の作者がどれだけ偉大な方だったのか、改めて知る貴重な機会になりました。

「かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと」は、9月4日(日)まで、渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。小学生・未就学児は入館無料です。
(土日祝日と最終週は、オンラインによる入場日時予約が必要です。)


【関連URL】 

グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM 

石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか

東京都現代美術館にて、展覧会「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」鑑賞。

初期の広告デザインから、舞台や映画の美術、衣装デザインまで、石岡さんのアートワークを網羅した展覧会。

グラフィックデザイン、特にポスターは今見ても凄みを感じずにはいられない。

『地獄の黙示録』と『イノセント』の実物ポスターを観られたこと、各種印刷物の色校正の赤字を観られたことは収穫だった。

この展覧会を観ると改めて、現代のクリエイティブに多大な影響を与えた方だということがよくわかる。

【関連URL】 
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石岡瑛子 | 展覧会 | 東京都現代美術館|MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO

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シアター・イメージフォーラムで、装幀者・菊地信義と本をつくる人々のドキュメンタリー映画『つつんで、ひらいて』鑑賞。

制作過程において、菊地さんがどのように考え、どのようにデザインしているのかを見ることができる貴重な映画。

【関連URL】
映画『つつんで、ひらいて』公式サイト

雑誌『PRODISM』創刊号・表紙・ブックデザイン

『PRODISM』創刊号の表紙デザイン

画像: 創芸社 ( http://www.prodism.com/ ) 


メンズファッション誌『PRODISM』創刊号のブックデザインです。

編集長は渡邊敦男さんで、明日10月24日に発売(価格:980円)されます。


『PRODISM』は、大人のためのプロダクト・ファッションマガジンとして創刊されますが、そのテーマに基づいたルールが気になります。


それは、


「プロダクト至上主義」をテーマに、既存のメンズファッション誌にはない独自の世界観を提案する。


というもので、

有名人・著名人に限らず、「顔」は一切出さない』
そうです。


すべてのページで「物」を中心に扱うのは、カタログでは普通の事ですが、ファッション雑誌では、めずらしいやり方です。

その背景にはブランドやトレンドより、「自分にあったもの」「自分が本当にほしいもの」へと、想定する読者の趣向が変化している事も大きいのではないか、と思います。


以前、「雑誌『ハーパーズ バザー』創刊の広告デザイン」という記事でも書きましたが、「ハーパーズ バザー」創刊を伝える駅貼りポスターも、モデルの顔を出さないでデザインされていました。

このような流れは、ここ数年来のライフスタイル提案や使用イメージといった広告の逆を行くものです。これが変化の予兆だとすると興味深いですね。

または「従来のライフスタイル提案・使用イメージを喚起する広告」と同じ方針で手法だけ逆にして、より読者の使用イメージを強調するため、なのかもしれません。

今まではモデルのカリスマ性によって、商品が売れていたと仮定しましょう。だけど、読者にとってモデルは他人です。自分ではありません。だからモデルの顔を消して、使用イメージだけを見せます。
つまり、
「モデルのカリスマ性で服を売る」から「洋服を売るためのモデル」
という本質へと立ち返るのです。


前回は、 「デザインの背景と存在価値について:『ドクターマーチン』のディスプレイデザイン」という記事を書きました。これは今回のものと真逆の手法ですが、どちらが正しいというものではなく、その時々でその会社やブランドに相応しいやり方を選ぶ必要があるのです。

とにもかくにも、「どのような手法で展開するのか」、「どのようにして魅せていくのか」、今後を楽しみに注目していきたいと思います。 



【関連URL】

PRODISM(プロディズム)10/24雑誌創刊!|創芸社


ブックデザイン・装丁 制作事例 | グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM 東京・神奈川


【以前の雑誌に関する記事はこちら】

雑誌『ハーパーズ バザー』創刊の広告デザイン : グラフィックデザイナーのノート


【比較・対象の記事はこちら】

デザインの背景と存在価値について:『ドクターマーチン』のディスプレイデザイン : グラフィックデザイナーのノート


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メトロミニッツ131・ブックデザイン

フリーペーパー『メトロミニッツ No.131』エディトリアルデザインです。

駅構内で、10月号が配布されていました。


特集は「ラディカルでアバンギャルドで革命的な前衛派日本酒」です。


表紙は黒バックで、日本酒のボトルやグラスがレイアウトされていますが、「前衛派」というキーワードが、ぴったりのデザインですね。特色のシルバーも映えて、とても美しいです。


ラディカル、アバンギャルド、革命的、前衛派。

これらキーワードのすべてが、かつては未来感を示していたのですが、現在では逆にノスタルジーを誘う言葉になっています。


音楽で言えば、「ダフトパンク」や「YMO」や「クラフトワーク」、工業デザインで言えば、アメリカ60年代に多く見られたアトミックなデザイン、文学で言えば「ウイリアム・ギブソン」といったところでしょうか。


そういうキーワードをこれでもかとばかりに、ありったけ詰め込んで日本酒と組み合わせるというやり方はクレバーで、映画を観ているようなワクワク感を感じさせます。


かつて焼酎の『いいちこ』のボトルデザインでも多く見られた手法です。

調べていないので正確なところはわからないのですが、日本酒業界は問題意識が高く、マーケティングに積極的な業界なのかもしれません。


デザイナーとして、日本酒のラベルやボトルは注視していきたいと思います。


メトロミニッツ131・エディトリアルデザイン

中面の特集ページは、個性的なフォントを用いてデザインされています。


表紙のボトルは、モノトーンで表現されていましたが、特集ページのトビラ(見開き)のボトルは、カラーで色とりどりにレイアウトされていました。表紙とはまた違ったイメージで、こちらも素敵なデザインだと思いました。


『メトロミニッツ』アートディレクションは、「グルーヴィジョンズ」です。



【関連URL】

メトロミニッツ Metro min.


エディトリアルデザイン 制作事例 | グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM 東京・神奈川


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