グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

カテゴリ: パッケージデザイン

「マリー・クワント展」01

世界巡回展「マリー・クワント展」を観てきました。
本展はロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)で開催され、約40万人が訪れた展覧会です。今回はその日本版で、約100点の衣服を中心にファッションデザイナーとしての業績が展示されていました。


「マリー・クワント展」01
ベストとショートパンツのアンサンブルを着るツイッギー(1966年)


1960年代「スウィンギン・ロンドン」のファッションは、2020年代になった現在でも十分に通用する洗練を感じさせます。
しかし、その真価は併せて展示されているモノクロ写真、実際にモデルが着用している写真で知ることに大きな価値があります。やはり服は実際に着用して完成形となるのであり、作り手のヴィジョンが机上に終わらず、使用イメージまできちんと視野におさめていることが必須なのでしょう。
そして、モノクロ写真は「2020年代にも通用するほどの洗練」にカルチャー・アーカイヴ的な価値を付与してくれます。「スウィンギン・ロンドン」が流行ではなく、一つの文化的潮流であることを伝えているからです。
私はグラフィックデザイナーの視点から、当時のデイジーのロゴのついたパッケージやメイクアップの解説書、ショッピングバッグなども興味深く感じました。

この展覧会では「ファッションデザイナーとしてのマリー・クワント」だけにおさまらず、ブランドを成功に導いた起業家としてのストーリー、フェミニストとしての活動など、彼女の総体が展示されています。
 
起業家としては、後に夫となるアレキサンダー・プランケット・グリーンと友人で実業家のアーチー・マクネアと組み「バザー」をオープンさせたこと、誰にでも手が届く既製服の大量生産を実現したこと、ブランドロゴの先駆けとなったデイジーの花のマークを商標登録し、ライセンスビジネスを始めたことなどが取り上げられています。
アメリカのビジネスパートナーからは効率性や価格設定、サイズ感などを学び、お返しにイギリス的「クール」(アメリカの消費者が憧れる、ひねりのある個性)を教えたそうです。
マリー・クワントが主にファッションで活躍したのは、自身のブティック「バザー」をオープンした1955年から1969年の閉店までの間です。その後はグローバル展開し、1975年からは収益性の高い化粧品やレッグウェアなどのライセンスビジネスに専念します。
「マリークワント」のコスメが日本に上陸したのは1971年でした。それ故に日本ではファッションよりコスメの印象が一般的でしょう。

フェミニストとしての活動は、平等な権利を求める闘争が盛んになっていた時代に、新しい女性の役割を率先して演じ、発言し続けました。ほとんどの女性が銀行口座やクレジットカードを持てなかった当時、服に「イングランド銀行」「当座貸し越し」「小切手帳」と名前をつけ、男女間の不平等を皮肉っているのには驚かされます。ウイットに富んだ言葉選びのセンスもマリー・クワントの人柄として、強く印象に残りました。

今回の展示会は鋭敏さと洞察を併せ持つマリー・クワントという人を学び、翻って2020年代を生きる一個人として、彼女の生きた躍動する時代の空気を体感した貴重な機会となりました。

「マリー・クワント展」03

「マリー・クワント展」は 2023年1月23日(日)まで、渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。

【関連URL】
マリー・クワント展 | Bunkamura

グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM

資生堂のスタイル1
「美と、美と、美。-資生堂のスタイル-」展鑑賞。

資生堂のスタイル2
パッケージデザイン

資生堂のスタイル3
1937年に創刊された資生堂の企業文化誌『花椿』
 

1980年代に「セルジュ・ルタンス」を起用したグローバルイメージのポスターを観ることができたのが収穫でした。


【関連URL】
美と、美と、美。-資生堂のスタイル展-

『無印良品』の梱包・パッケージデザイン1

『無印良品』で買い物した際に届く、配送用ダンボールのパッケージデザインです。

上部分に定規が印刷されてあり、デザインとしての装飾にもなっています。


『無印良品』の梱包・パッケージデザイン2

開封しダンボールの蓋をひとつ開けると、右側には「お買い上げいただきありがとうございました。」という文字と共に、『無印良品』の「商品」と「ヒト」の味のあるイラストが目に飛び込んできます。

ラーメン屋さんのスープを飲み干すと出てくる、「ありがとうございました」という仕掛けや、コンピュータのOSをインストールした時のメッセージと同じですね。

こういうアイディアは世界にはあまり例はなく、日本に多いのかもしれません。


『無印良品』の梱包・パッケージデザイン3

左側には「お客様へ」という見出しでお礼と注意書き、そしてこちらにもイラストと定規が添えられていました。『無印良品』を代表する商品と、そこで暮らす人々のイラストは、温かくて優しいイメージです。


このダンボールを見た時、「良品計画」の企業姿勢がとてもよく現れていると思いました。

今は価格を競うか、熱烈なファンを多く持つか、企業姿勢が克明に現れています。

「売るまで」ではなく、「売った後」のマーケティングを大切にしている『無印良品』のような会社は、多くのファンを持つ会社です。

こういった会社はブランディングを重視しているので、顧客満足度を高める事を大切に考えています。

このような文章、イラストや定規は、本来であれば「必要ないもの」ですが、これがあることによってクール(格好良い)な企業ではなく、「ヒト」の温かみが伝わってくるのです。

その「生活感の温かみ」こそが『無印良品』の考える「自社の強み」なのでしょう。


おまけを付けるとか、手紙を入れるというのは思い付きで浮かぶアイディアですが、「お礼と共に定規やイラストを印刷しておく」というのは思い付きにくいだけに、本当の意味で気が利いています。

商品が届いた場所は、引っ越したばかりのまだ何もない殺風景な部屋かもしれませんし、購入した商品が届いた際に、大きさを確認するための定規が必要かもしれません。そんな時にこのダンボールが届くと、自分で買ったものであっても、ちょっとした嬉しい贈り物のような気分になります。

本気で「ヒト」を喜ばそうと思うなら、本当の意味で「ちょっと気が利いた」アイディアが必要で、それが出来る会社はその難しさを良く知っている会社であり、そういった会社はあまりないと思います。


生活に関わる商品を扱う場合、生活のイメージや人の気配が感じられることは、とても大切なことです。「モノ」を売るということは、販売して終わりなのではなく、梱包と発送も含めた商品の受け渡し方、その先の使用状況まで、イメージし配慮する必要があります。


これは商品だけではなく、サービス全般、生活の中のすべてにおいても言える事です。


バブル期の頃、各国の航空会社のサービスを見るとその国の国民性がわかるという記事を読みました。

例えば、アメリカの航空会社は親友っぽい態度でサービスをするとか、そういう内容で、

日本の航空会社は殿様のようにお客様を扱うと書いてあったのを覚えています。

そのように考えると、三波春夫さんが「お客様は神様です」と言った、高度成長期からバブルまでは同じ価値観で、今は「殿様のように丁重に」ではなく、無印良品のダンボールが示すように「気が利いたヒト」が、現在のブランディングデザインかもしれません。

このような変化に敏感である事も、デザインの成果を左右する上で大切な要素である事は間違いありません。



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【関連URL】

無印良品

松竹梅白壁蔵『澪』のボトルパッケージデザイン

松竹梅白壁蔵ボトルのパッケージデザインです。


最近、今までにない日本酒のプロモーションを見かけます。

宝酒造株式会社から発売されている、松竹梅白壁蔵もそのひとつです。


「これが、私の新しい日本酒。」というコピーと共に、女性がシャンパングラスに入った「スパークリング清酒」を持っている広告は、女性にはとても惹かれるものになっていると思いました。


「泡が立ちのぼる様子をイメージした」というオリジナルボトルは、色遣いやその形状から、まるで化粧品のようにも見えます。


日本酒と言えば「年輩の男性」というイメージでしたが、「若い女性」をターゲットにした「スパークリング清酒」は、新たな日本酒の在り方を打ち出したものになっていました。


『澪』のWebサイトには、

『澪』とは、「浅瀬の水の流れ」、「船の通った泡の跡」という意味。

浅さを低アルコール、泡の跡を発泡性にたとえ、清酒の新しい流れを作る、

という想いを込めて『澪』と名付けました。

そして『MIO』は、イタリア語で「私の」という意味。

「私のお酒」と感じてもらえるよう、願いを込めています。

と、記載されています。


『澪』「清酒の新しい流れを作る」ことを目指した商品ですが、その実現成功していると思います。


私も飲んでみたのですが、女性向けのボトルデザインと、スパークリングで5%というアルコール度数は、今まで日本酒と接点のなかった層に向けて作られたものだということがよくわかりました。

日本酒は「Rice Wine」と英語圏では説明されます。

また、大抵の日本酒は洋酒と比較して甘口なので「女性の側に一度寄せてみる」というのは野心的に見えて、実は確実な試みなのかもしれません。

「日本酒は男性のもの」という固定観念をデザインで突破するも、本質は外していないという理想的なチャレンジに思えます。



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【関連URL】

松竹梅白壁蔵「澪(みお)」MIO スパークリング清酒 | 宝酒造株式会社


【以前の日本酒に関する記事はこちら】

「レトロなフューチャー・イメージ」の使い方:『メトロミニッツ No.131』のエディトリアルデザインとマーケティングについて : グラフィックデザイナーのノート


【以前のボトルデザインに関する記事はこちら】

『エビアン』2014年のデザイナーズボトルは「エリー・サーブ」 : グラフィックデザイナーのノート


オールプルーン・オールオサツ・パッケージ・ロゴ・デザイン1

東ハト『オールプルーン』『オールオサツ』パッケージデザインです。

「オールレーズン」で知られる、「オールシリーズ」として発売されています。


「オールレーズン」は、1972年に発売され、約40年に渡るロングセラーとなっている商品です。

以前のパッケージは、正統派のお菓子といった印象でしたが、リニューアルされた際に「All」の文字が可愛らしいキャラクターになり、とても親しみやすいイメージになりました。


「All Raisin」「 All Apple」といったように、「オールシリーズ」の商品名のロゴとして、このキャラクターを使用するのは、とてもいいアイディアですね。スーパーやコンビニの棚で見かけても、一目で「オールシリーズ」の商品だとわかりました。


オールプルーン・オールオサツ・パッケージ・ロゴ・デザイン2

お菓子は「おやつ」として、一息つく時やリラックスしたい時などに、食べることが多いのではないかと思います。そんな時に、このキャラクターの可愛い笑顔に触れると、「おやつってそういうものだよね」とよりリラックスできるのではないかと思いました。
限定も高級感もそれはそれで素晴らしいとは思いますが、何より素晴らしいのは「おやつとは何か?」という本質と向き合う東ハトさんの真摯さだと思います。


このような「工夫」と「遊び心」は、デザインにおいてとても大切なことです。このリニューアルにより、私はすっかり「オールシリーズ」のファンになりました。パッケージと共に中身もリニューアルされ、どれも更に美味しくなっています。


ちなみに、『オールプルーン』は、期間限定だったようで、現在は取り扱いがないようです。

『オールプルーン』『オールオサツ』は、どちらもとても美味しかったので、またの発売を楽しみにしています。毎年、この時期にこうやって思い出されるようになるのと、「オールレーズン」だけを一年中売り続けていくのとでは、やはり企業イメージも全然違ってきますね。



【関連URL】

株式会社 東ハト/商品カタログ/オールレーズン


CI・ロゴのデザイン事例 | グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM 東京・神奈川


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