グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

カテゴリ: ファッションデザイン

展覧会「マリー・ローランサンとモード」01

展覧会「マリー・ローランサンとモード」を観てきました。

「マリー・ローランサンとモード」は、1910年から1930年代にかけてのモードや芸術の世界を詳細に展示しています。主に1920年代のパリを取り上げ、フランスの画家 マリー・ローランサンとファッションデザイナー ココ・シャネルが象徴的な存在として紹介されていました。彼らの作品を通じて、当時の社交会や前衛芸術家たち(ピカソ、シャガール、ジャン・コクトーなど)との交流、女性の社会進出や大衆消費社会の到来など、激動の時代を垣間見ることができます。


展覧会「マリー・ローランサンとモード」02
『わたしの肖像』(1924年)
1924年6月、ローランサン41歳の自画像。
パリ社交界で人気の肖像画化となった頃の作品。
淡い色彩で構成されている。


1920年代は、女性の社会進出が進みました。景気の回復によって大衆消費社会が到来し、街にはモダンガールが出現します。また、国境を超えて芸術家たちがパリに集まりました。
社交会の女性たちはシャネルのドレスに身を包むことがステイタスとなり、マン・レイに写真を撮らせています。一方、マン・レイはオートクチュールに身を包む女性たちの肖像写真で人気を博しました。

しかし1930年代に入ると、世界恐慌とファシズムの躍進という不穏な空気の中、ファッションはフェミニンへと回帰していきます。ローランサンの人気にも翳りが見え始め、作風も変化していきました。色調は明快で強いものになっています。

展覧会「マリー・ローランサンとモード」03
『シャルリー・デルマス夫人』(1938年)
グレーに溶け込む淡いピンクや青が、明るく強い色彩に代わり、
人物もはっきりと描かれるようになった。


また、写真製版の技術が進歩したのもこの頃で、雑誌「VOGUE(ヴォーグ)」などがファッション写真を掲載し始めています。当時の「VOGUE」に掲載されていた、シャネルの広告デザインも展示されていました。


ローランサンが近年に与えた影響として、シャネルの2011のコレクションが作品と映像で紹介されています。1983年から36年間にわたりシャネルのアーティスティック・ディレクターを務めたカール・ラガーフェルドは、ローランサンの色彩に着想を得て数回にわたりコレクションを発表しました。このように、ローランサンとその作品は、現代のファッションにも大きな影響を与え続けています。

展覧会「マリー・ローランサンとモード」04
『ピンクとグレーの刺繍が施されたロングドレス』(2011年)
カールラガーフェルドによる2011年春夏オートクチュールコレクションより

展覧会「マリー・ローランサンとモード」05
『黒いサテンのリボンの付いたピンクのフェイユ・ドレス』(2011年)
カールラガーフェルドによる2011年春夏オートクチュールコレクションより


今回もっとも注目した作品は、シャネルが当時流行画家であったローランサンに依頼した作品「マドモアゼル・シャネルの肖像」です。
シャネルは出来上がりに満足せず描き直しを依頼しましたが、ローランサンも拒否したためシャネルが受け取ることはありませんでした。ローランサンは後に、「シャネルはいい娘だけど、オーヴェルニュの田舎娘よ。あんな田舎娘に折れてやろうとは思わなかった。」と語ったと伝えられています。シャネルも強い女性ですが、ローランサンもなかなかです。柔らかで繊細なイメージの作品とのギャップがかなり面白いと思いました。

展覧会「マリー・ローランサンとモード」06
『マドモアゼル・シャネルの肖像』(1923年)
シャネルがローランサンに依頼した作品。


展覧会「マリー・ローランサンとモード」07

「マリー・ローランサンとモード」は、2023年4月9日(日)まで、渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。
その後、2023年4月16日(日)〜6月11日(日)まで、京都の京セラ美術館に巡回します。


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「マリー・クワント展」01

世界巡回展「マリー・クワント展」を観てきました。
本展はロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)で開催され、約40万人が訪れた展覧会です。今回はその日本版で、約100点の衣服を中心にファッションデザイナーとしての業績が展示されていました。


「マリー・クワント展」01
ベストとショートパンツのアンサンブルを着るツイッギー(1966年)


1960年代「スウィンギン・ロンドン」のファッションは、2020年代になった現在でも十分に通用する洗練を感じさせます。
しかし、その真価は併せて展示されているモノクロ写真、実際にモデルが着用している写真で知ることに大きな価値があります。やはり服は実際に着用して完成形となるのであり、作り手のヴィジョンが机上に終わらず、使用イメージまできちんと視野におさめていることが必須なのでしょう。
そして、モノクロ写真は「2020年代にも通用するほどの洗練」にカルチャー・アーカイヴ的な価値を付与してくれます。「スウィンギン・ロンドン」が流行ではなく、一つの文化的潮流であることを伝えているからです。
私はグラフィックデザイナーの視点から、当時のデイジーのロゴのついたパッケージやメイクアップの解説書、ショッピングバッグなども興味深く感じました。

この展覧会では「ファッションデザイナーとしてのマリー・クワント」だけにおさまらず、ブランドを成功に導いた起業家としてのストーリー、フェミニストとしての活動など、彼女の総体が展示されています。
 
起業家としては、後に夫となるアレキサンダー・プランケット・グリーンと友人で実業家のアーチー・マクネアと組み「バザー」をオープンさせたこと、誰にでも手が届く既製服の大量生産を実現したこと、ブランドロゴの先駆けとなったデイジーの花のマークを商標登録し、ライセンスビジネスを始めたことなどが取り上げられています。
アメリカのビジネスパートナーからは効率性や価格設定、サイズ感などを学び、お返しにイギリス的「クール」(アメリカの消費者が憧れる、ひねりのある個性)を教えたそうです。
マリー・クワントが主にファッションで活躍したのは、自身のブティック「バザー」をオープンした1955年から1969年の閉店までの間です。その後はグローバル展開し、1975年からは収益性の高い化粧品やレッグウェアなどのライセンスビジネスに専念します。
「マリークワント」のコスメが日本に上陸したのは1971年でした。それ故に日本ではファッションよりコスメの印象が一般的でしょう。

フェミニストとしての活動は、平等な権利を求める闘争が盛んになっていた時代に、新しい女性の役割を率先して演じ、発言し続けました。ほとんどの女性が銀行口座やクレジットカードを持てなかった当時、服に「イングランド銀行」「当座貸し越し」「小切手帳」と名前をつけ、男女間の不平等を皮肉っているのには驚かされます。ウイットに富んだ言葉選びのセンスもマリー・クワントの人柄として、強く印象に残りました。

今回の展示会は鋭敏さと洞察を併せ持つマリー・クワントという人を学び、翻って2020年代を生きる一個人として、彼女の生きた躍動する時代の空気を体感した貴重な機会となりました。

「マリー・クワント展」03

「マリー・クワント展」は 2023年1月23日(日)まで、渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。

【関連URL】
マリー・クワント展 | Bunkamura

グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM

ザ・フィンランドデザイン展

「ザ・フィンランドデザイン展 -自然が宿るライフスタイル」を観てきました。

豊かな自然からのインスピレーション、社会とライフスタイルの変化など、デザインに与えた影響やデザインが生まれた背景など、多くを体感できる展覧会です。

19301970年のフィンランドデザインの流れと全体像を見通せる展示となっていました。


【関連URL】 
ザ・フィンランドデザイン展 ― 自然が宿るライフスタイル | Bunkamura



ユニクロのプロジェクト「SPRZ NY」から、イームズとのコラボレーション『SPRZ NY EAMES』が発売されています。

ユニクロ・イームズ・プロダクトデザイン・ファッションデザイン
ユニクロとイームズのコラボレーション、『SPRZ NY EAMES』登場
20世紀のデザイン界の巨匠イームズの世界観をTシャツにのせ、
ニューヨークから世界に発信 - UNIQLO ユニクロ


世界中のクリエイターやデザイン好きに多くの支持を集める、イームズ夫妻の製品は高額なものが多いのですが、ユニクロで商品化されたものはどれも手頃な価格設定になっていました。

商品のラインナップは、「メンズTシャツ」9種(1,500円+税)、「ストール」3種(1,990円+税)、「ブランケット」4種(1,990円+税)、「ルームシューズ」4種(990円+税)です。
店頭で実物を見てみると予想以上のクオリティーで、どれもイームズの良さが出ていました。

ユニクロ・イームズ・プロダクトデザイン・テキスタイルデザイン

私は「ブランケット」を3種購入しました。
テキスタイル・デザインを手掛けたレイ・イームズによるデザインですが、当時のデザインはそのままに、現代の生地にプリントされたものです。枚数を多く揃えてインテリアのアクセントとして使うのも良いですね。
実物のクオリティですが、私個人の見解では申し分のないものと思いました。
優れたテキスタイルデザインは、何年も経った後に製品化されてもやはり素晴らしいものです。
良いコンディションの商品入手が難しく、絶対数の減少によって今後も高額になっていくであろう現状において、今回、イームズ関連のコレクターズ・アイテムとしてはかなり安価に入手できるのは嬉しいですね。
9月25日(月)の発売からしばらく経っているので、お目当ての商品があれば早めに購入した方が良さそうです。



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フェラガモ・展覧会・ディスプレイ・デザイン1

「Salvatore Ferragamo」銀座本店のディスプレイデザインです。

(写真は、今年6月に撮影したものです。)

「サルヴァトーレ・フェラガモ ミュージアム」主催の、「THE AMAZING SHOEMAKER『素晴らしき靴職人』展」が、現在イタリア・フェレンツェで開催されています。


この展覧会は、靴職人や靴を題材にしたファンタジー作品や、世界中で活躍するアーティストたちが同展覧会のために手がけた新作やインスタレーションなどを展示しています。


銀座本店のディスプレイデザインは、その中のひとつとして出展されている、「サルヴァトーレ・フェラガモ 」の生涯を元に描かれたコミックです。


フェラガモ・展覧会・ディスプレイ・デザイン2

アート作品のような趣ですが、伝達手段としてコミックを用いた表現は、歴史の重みを感じさせるブランドとしては、斬新な表現だと思いました。


その中の説明文のひとつには、

サルヴァトーレ・フェラガモの、高い品質と美しい靴は、世界中のロイヤルファミリーや、マリリン・モンロー、グレタ・ガルボ、オードリー・ヘップバーン、ソフィア・ローレンといったハリウッドスターたちを瞬く間に虜にしました。世界中のファッションショーでも紹介され、フェラガモの靴は世界を席巻しました。
と、あります。


このような内容を、コミックで表現しているというのは、とても興味深いです。

長年に渡る歴史もあり、世界中で名の知れたブランドなので、ストーリーで伝えるのは必然とも言えますが、フェラガモの購買層に向けてコミックで発信するというアグレッシブな姿勢は、非常に素晴らしいことです。今までの業績や成功に甘んじることなく、常に新しいアプローチを展開していることに感動を覚えましたが、常に新しいアプローチを展開しているからこそ、今日まで長い歴史を築いてくることができたとも言えます。

漫画について、確かに作家の筒井康隆氏も「文章で構成される小説と比較すると約30倍程度の情報量がある」と書いています。


普通に考えるとこういう場合、ポスターが使用されると思います。

しかしポスターもまた一コマ漫画と考えてみると、今回のコミックを用いたディスプレイデザインは、根本で大きくズレているとは言えないのかもしれません。

時として「ポスターは一コマ漫画なのかもしれない」という一つの可能性に気付けたのは収穫でした。


大切なのは伝えたい情報を正確に把握して、最も適切な手段を選ぶこと。

伝えたい情報とその情報が誰に向けて発信されるのか、そしてその為に最も適切な手段を選ぶ。

デザインとはそれらすべての上に成立したもので、こういったポスターを見た時に「漫画だから」と思考を止めてしまえば、その案件は関わった人すべての努力が徒労に終わってしまうかもしれないのです。


現地では少年時代の「サルヴァトーレ・フェラガモ」を題材に制作した、短編ファンタジー映画『White Shoe』も上映されています。YouTubeで予告編を観ることができます。


White Shoe




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グラフィックデザイン:DESIGN+SLIM

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Salvatore Ferragamo

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