グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

タグ:プロダクトデザイン

フェラガモ・展覧会・ディスプレイ・デザイン1

「Salvatore Ferragamo」銀座本店のディスプレイデザインです。

(写真は、今年6月に撮影したものです。)

「サルヴァトーレ・フェラガモ ミュージアム」主催の、「THE AMAZING SHOEMAKER『素晴らしき靴職人』展」が、現在イタリア・フェレンツェで開催されています。


この展覧会は、靴職人や靴を題材にしたファンタジー作品や、世界中で活躍するアーティストたちが同展覧会のために手がけた新作やインスタレーションなどを展示しています。


銀座本店のディスプレイデザインは、その中のひとつとして出展されている、「サルヴァトーレ・フェラガモ 」の生涯を元に描かれたコミックです。


フェラガモ・展覧会・ディスプレイ・デザイン2

アート作品のような趣ですが、伝達手段としてコミックを用いた表現は、歴史の重みを感じさせるブランドとしては、斬新な表現だと思いました。


その中の説明文のひとつには、

サルヴァトーレ・フェラガモの、高い品質と美しい靴は、世界中のロイヤルファミリーや、マリリン・モンロー、グレタ・ガルボ、オードリー・ヘップバーン、ソフィア・ローレンといったハリウッドスターたちを瞬く間に虜にしました。世界中のファッションショーでも紹介され、フェラガモの靴は世界を席巻しました。
と、あります。


このような内容を、コミックで表現しているというのは、とても興味深いです。

長年に渡る歴史もあり、世界中で名の知れたブランドなので、ストーリーで伝えるのは必然とも言えますが、フェラガモの購買層に向けてコミックで発信するというアグレッシブな姿勢は、非常に素晴らしいことです。今までの業績や成功に甘んじることなく、常に新しいアプローチを展開していることに感動を覚えましたが、常に新しいアプローチを展開しているからこそ、今日まで長い歴史を築いてくることができたとも言えます。

漫画について、確かに作家の筒井康隆氏も「文章で構成される小説と比較すると約30倍程度の情報量がある」と書いています。


普通に考えるとこういう場合、ポスターが使用されると思います。

しかしポスターもまた一コマ漫画と考えてみると、今回のコミックを用いたディスプレイデザインは、根本で大きくズレているとは言えないのかもしれません。

時として「ポスターは一コマ漫画なのかもしれない」という一つの可能性に気付けたのは収穫でした。


大切なのは伝えたい情報を正確に把握して、最も適切な手段を選ぶこと。

伝えたい情報とその情報が誰に向けて発信されるのか、そしてその為に最も適切な手段を選ぶ。

デザインとはそれらすべての上に成立したもので、こういったポスターを見た時に「漫画だから」と思考を止めてしまえば、その案件は関わった人すべての努力が徒労に終わってしまうかもしれないのです。


現地では少年時代の「サルヴァトーレ・フェラガモ」を題材に制作した、短編ファンタジー映画『White Shoe』も上映されています。YouTubeで予告編を観ることができます。


White Shoe




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Salvatore Ferragamo

『無印良品』の梱包・パッケージデザイン1

『無印良品』で買い物した際に届く、配送用ダンボールのパッケージデザインです。

上部分に定規が印刷されてあり、デザインとしての装飾にもなっています。


『無印良品』の梱包・パッケージデザイン2

開封しダンボールの蓋をひとつ開けると、右側には「お買い上げいただきありがとうございました。」という文字と共に、『無印良品』の「商品」と「ヒト」の味のあるイラストが目に飛び込んできます。

ラーメン屋さんのスープを飲み干すと出てくる、「ありがとうございました」という仕掛けや、コンピュータのOSをインストールした時のメッセージと同じですね。

こういうアイディアは世界にはあまり例はなく、日本に多いのかもしれません。


『無印良品』の梱包・パッケージデザイン3

左側には「お客様へ」という見出しでお礼と注意書き、そしてこちらにもイラストと定規が添えられていました。『無印良品』を代表する商品と、そこで暮らす人々のイラストは、温かくて優しいイメージです。


このダンボールを見た時、「良品計画」の企業姿勢がとてもよく現れていると思いました。

今は価格を競うか、熱烈なファンを多く持つか、企業姿勢が克明に現れています。

「売るまで」ではなく、「売った後」のマーケティングを大切にしている『無印良品』のような会社は、多くのファンを持つ会社です。

こういった会社はブランディングを重視しているので、顧客満足度を高める事を大切に考えています。

このような文章、イラストや定規は、本来であれば「必要ないもの」ですが、これがあることによってクール(格好良い)な企業ではなく、「ヒト」の温かみが伝わってくるのです。

その「生活感の温かみ」こそが『無印良品』の考える「自社の強み」なのでしょう。


おまけを付けるとか、手紙を入れるというのは思い付きで浮かぶアイディアですが、「お礼と共に定規やイラストを印刷しておく」というのは思い付きにくいだけに、本当の意味で気が利いています。

商品が届いた場所は、引っ越したばかりのまだ何もない殺風景な部屋かもしれませんし、購入した商品が届いた際に、大きさを確認するための定規が必要かもしれません。そんな時にこのダンボールが届くと、自分で買ったものであっても、ちょっとした嬉しい贈り物のような気分になります。

本気で「ヒト」を喜ばそうと思うなら、本当の意味で「ちょっと気が利いた」アイディアが必要で、それが出来る会社はその難しさを良く知っている会社であり、そういった会社はあまりないと思います。


生活に関わる商品を扱う場合、生活のイメージや人の気配が感じられることは、とても大切なことです。「モノ」を売るということは、販売して終わりなのではなく、梱包と発送も含めた商品の受け渡し方、その先の使用状況まで、イメージし配慮する必要があります。


これは商品だけではなく、サービス全般、生活の中のすべてにおいても言える事です。


バブル期の頃、各国の航空会社のサービスを見るとその国の国民性がわかるという記事を読みました。

例えば、アメリカの航空会社は親友っぽい態度でサービスをするとか、そういう内容で、

日本の航空会社は殿様のようにお客様を扱うと書いてあったのを覚えています。

そのように考えると、三波春夫さんが「お客様は神様です」と言った、高度成長期からバブルまでは同じ価値観で、今は「殿様のように丁重に」ではなく、無印良品のダンボールが示すように「気が利いたヒト」が、現在のブランディングデザインかもしれません。

このような変化に敏感である事も、デザインの成果を左右する上で大切な要素である事は間違いありません。



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無印良品

松竹梅白壁蔵『澪』のボトルパッケージデザイン

松竹梅白壁蔵ボトルのパッケージデザインです。


最近、今までにない日本酒のプロモーションを見かけます。

宝酒造株式会社から発売されている、松竹梅白壁蔵もそのひとつです。


「これが、私の新しい日本酒。」というコピーと共に、女性がシャンパングラスに入った「スパークリング清酒」を持っている広告は、女性にはとても惹かれるものになっていると思いました。


「泡が立ちのぼる様子をイメージした」というオリジナルボトルは、色遣いやその形状から、まるで化粧品のようにも見えます。


日本酒と言えば「年輩の男性」というイメージでしたが、「若い女性」をターゲットにした「スパークリング清酒」は、新たな日本酒の在り方を打ち出したものになっていました。


『澪』のWebサイトには、

『澪』とは、「浅瀬の水の流れ」、「船の通った泡の跡」という意味。

浅さを低アルコール、泡の跡を発泡性にたとえ、清酒の新しい流れを作る、

という想いを込めて『澪』と名付けました。

そして『MIO』は、イタリア語で「私の」という意味。

「私のお酒」と感じてもらえるよう、願いを込めています。

と、記載されています。


『澪』「清酒の新しい流れを作る」ことを目指した商品ですが、その実現成功していると思います。


私も飲んでみたのですが、女性向けのボトルデザインと、スパークリングで5%というアルコール度数は、今まで日本酒と接点のなかった層に向けて作られたものだということがよくわかりました。

日本酒は「Rice Wine」と英語圏では説明されます。

また、大抵の日本酒は洋酒と比較して甘口なので「女性の側に一度寄せてみる」というのは野心的に見えて、実は確実な試みなのかもしれません。

「日本酒は男性のもの」という固定観念をデザインで突破するも、本質は外していないという理想的なチャレンジに思えます。



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【関連URL】

松竹梅白壁蔵「澪(みお)」MIO スパークリング清酒 | 宝酒造株式会社


【以前の日本酒に関する記事はこちら】

「レトロなフューチャー・イメージ」の使い方:『メトロミニッツ No.131』のエディトリアルデザインとマーケティングについて : グラフィックデザイナーのノート


【以前のボトルデザインに関する記事はこちら】

『エビアン』2014年のデザイナーズボトルは「エリー・サーブ」 : グラフィックデザイナーのノート


火災報知器『Nest Protect』プロダクトデザイン

『Nest Protect』
画像: Nest( http://nest.com/ )
 

「Nest」社の新製品『Nest Protect』は、今までにないタイプの住宅用「火災報知器」です。


「Nest」社は、iPodの開発チーム責任者でもある元アップルの「トニー・ファデル(Tony Fadell)が起こした会社で、「Nest」社の発表する製品は、全世界で注目されています。前作の自動温度調節器『Nest Thermostat』も、とても興味深いものでした。


この会社に興味を掻き立てられるのは、

「家にある愛されない製品を、シンプルで美しく配慮に満ちたものに生まれ変わらせる」

をモットーにしているからです。

今回の『Nest Protect』は、従来の「火災報知器」を完全に超えるものになっていました。

「火災報知器」や「自動温度調節機」といった製品を、誰も気づかない視点で見事に、リデザイン(デザインし直す事)することに成功しています。

普段ほとんど関心を持たれないもの、もしくは愛着の湧きそうにない「火災報知器」や「自動温度調節機」が欲しくなる、注目されるというのは実に大変な事なのです。


使用している製品を買い替える際に、「デザイン」と「機能」が今より良いものでなければ、購買に結び付くことはありません。「人々の予想と期待を超えるもの」、「生活が一変するようなもの」、というのはとても難しいことですが、時にたった一つの製品が、人々の暮らしを一変させてしまう事があります。

そのような製品が機能だけ突出して改善されてデザインがそのまま、といったケースは少ないと思います。これはデザインの本質もまた「まず従来の製品を見直すこと」にあるから、かもしれません。


「Nest」社の生み出す製品は、そういった可能性を秘めた希有な製品ですから、今後も注目していきたいと思います。



【製品に関しての、詳しい記事はこちら】
火災報知機が本気出すとこうなる。「Protect」は平常時もさりげなくフル稼働 : ギズモード・ジャパン 




火災報知器『Nest Protect』

Meet the Nest Protect smoke and carbon monoxide alarm



自動温度調節器『Nest Thermostat』

Introducing the Nest Learning Thermostat

 

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【関連URL】

Home | Nest


雑誌『PRODISM』創刊号・表紙・ブックデザイン

『PRODISM』創刊号の表紙デザイン

画像: 創芸社 ( http://www.prodism.com/ ) 


メンズファッション誌『PRODISM』創刊号のブックデザインです。

編集長は渡邊敦男さんで、明日10月24日に発売(価格:980円)されます。


『PRODISM』は、大人のためのプロダクト・ファッションマガジンとして創刊されますが、そのテーマに基づいたルールが気になります。


それは、


「プロダクト至上主義」をテーマに、既存のメンズファッション誌にはない独自の世界観を提案する。


というもので、

有名人・著名人に限らず、「顔」は一切出さない』
そうです。


すべてのページで「物」を中心に扱うのは、カタログでは普通の事ですが、ファッション雑誌では、めずらしいやり方です。

その背景にはブランドやトレンドより、「自分にあったもの」「自分が本当にほしいもの」へと、想定する読者の趣向が変化している事も大きいのではないか、と思います。


以前、「雑誌『ハーパーズ バザー』創刊の広告デザイン」という記事でも書きましたが、「ハーパーズ バザー」創刊を伝える駅貼りポスターも、モデルの顔を出さないでデザインされていました。

このような流れは、ここ数年来のライフスタイル提案や使用イメージといった広告の逆を行くものです。これが変化の予兆だとすると興味深いですね。

または「従来のライフスタイル提案・使用イメージを喚起する広告」と同じ方針で手法だけ逆にして、より読者の使用イメージを強調するため、なのかもしれません。

今まではモデルのカリスマ性によって、商品が売れていたと仮定しましょう。だけど、読者にとってモデルは他人です。自分ではありません。だからモデルの顔を消して、使用イメージだけを見せます。
つまり、
「モデルのカリスマ性で服を売る」から「洋服を売るためのモデル」
という本質へと立ち返るのです。


前回は、 「デザインの背景と存在価値について:『ドクターマーチン』のディスプレイデザイン」という記事を書きました。これは今回のものと真逆の手法ですが、どちらが正しいというものではなく、その時々でその会社やブランドに相応しいやり方を選ぶ必要があるのです。

とにもかくにも、「どのような手法で展開するのか」、「どのようにして魅せていくのか」、今後を楽しみに注目していきたいと思います。 



【関連URL】

PRODISM(プロディズム)10/24雑誌創刊!|創芸社


ブックデザイン・装丁 制作事例 | グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM 東京・神奈川


【以前の雑誌に関する記事はこちら】

雑誌『ハーパーズ バザー』創刊の広告デザイン : グラフィックデザイナーのノート


【比較・対象の記事はこちら】

デザインの背景と存在価値について:『ドクターマーチン』のディスプレイデザイン : グラフィックデザイナーのノート


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