グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

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展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」01

「AWA」の展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」を渋谷ヒカリエで鑑賞。

「AWA」とは、インスタグラムアカウント「Accidentally Wes Anderson(@accidentallywesanderson)」のことで、ワリー&アマンダ・コーヴァル夫妻が創設した「ウェス・アンダーソン」的な写真を投稿する人気コンテンツです。日本での開催は、前回の寺田倉庫に続いて2度目です。

各セクションに分けられたエリアは、「ウェス・アンダーソン」の映画作品を想起させる構成になっており、写真とともに会場のデザインも楽しめるようになっていました。

  • Welcome Adventurers
  • Open Your Album
  • Mind the Gap
  • The Terminal
  • Cities to Explore
  • Check in, Please
  • European Classic
  • Arabian nights
  • Stars and Stripes
  • Cool Pools
  • Colorful Collection
  • Relax in Nature
  • The Seventh Continent

「The Terminal」エリアは『ダージリン急行』の乗り物に関するもの、「Check in, Please」エリアは『グランド・ブダペスト・ホテル』のホテルに関するもの、「The Seventh Continent」エリアは『ライフ・アクアティック』の海に関するもの、などです。
映画を観ていなくても十分楽しめると思いますが、映画を観ているとより一層楽しめるのは間違いありません。また、みなさんがどのように「ウェス・アンダーソン」作品を捉えているか、確認するのも面白い試みです。


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」02
オープニングの「Welcome Adventurers」エリア

展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」03
ワリー&アマンダ・コーヴァル夫妻が写っている写真も。


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」04
ノスタルジックな「Open Your Album」エリア

展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」05
「ウェス・アンダーソン」的な写真を「ウェス・アンダーソン」風に撮ってみました。
やたらシンメトリーに撮りたくなります。


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」06
鉄道駅の「The Terminal」エリア


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」07
乗り物の「Mind the Gap」エリア

展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」18
乗り物の写真が順次入れ替わる。

展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」08
車窓のような展示風景。奥の風景はムービー。


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」09
展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」10
アメリカの「Stars and Stripes」エリア

展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」19
次の展示エリアに移動する入り口


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」11
ホテルの「Check in, Please」エリア

展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」12
『グランド・ブダペスト・ホテル』を再現した空間


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」13
プールの「Cool Pools」エリア

展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」14
「Cool Pools」エリアの空間


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」15
ピンクとターコイズブルーの「Colorful Collection」エリア


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」16
自然の「Relax in Nature」エリア


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」17
南極の「The Seventh Continent」エリア


同展に合わせて『ウェス・アンダーソンすぎる風景みつけたコンテスト』というフォトコンテストも開催されていました。
各賞の名称が「AWA賞」「ウェス・アンダーソンすぎる風景賞」に加え、「シンメトリー賞」「パステルカラー賞」「デコラティブ賞」と、「ウェス」作品のキーワードになっています。
近年の作品では、シンメトリーの構図とパステル調のカラフルな色彩の印象が強いですが、作品を振り返り「デコラティブ」というのも重要なキーワードだと気づきました。

展示エリアの最後には、展示作品を使用した「ボーディングパス」を自作できるエリアもあります。
写真を見ながらちょっとした旅の気分を味わい、頭の片隅で「ウェス・アンダーソン」作品に思いを馳せる、そんなユニークな体験でした。


展覧会「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」20

「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」は、渋谷ヒカリエのヒカリエホールにて、2023年12月28日(木)まで開催されています。


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parco-advertising-design01

「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」を観てきました。
渋谷PARCO開業50周年記念のこの展覧会は、過去のCMやポスターから現代のビジュアルまで幅広く展示されています。

展示内容には各時代にキーワードを付されており、「2000年代以降~(アート)」から「1990年代(渋谷)」、「1980年代(広告)」、そして「1970年代(予言)」へと時代をさかのぼる構成で、パルコの代表的な広告作品が展示されていました。

展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」02
(1977年)
アートディレクターは、長谷川好男さん。
イラストレーターは、山口はるみさん。
 
展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」03
(1970年代)
写真左3点のアートディレクターは、石岡瑛子さん。
 
 
私は90年代に上京してから実際のパルコのCMやポスターを見るようになりましたが、今回の展示で70年代や80年代の作品が印象に残っていることに改めて気付かされました。
石岡瑛子さんや山口はるみさん、井上嗣也さんの作品は、実際に見たことはなくても書籍やギャラリーで何度も目にしていたからかもしれません。


展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」04
(1980年代)
写真右3点のアートディレクターは、井上嗣也さん。 

 
パルコの広告はシンプルな構成ながら、強いメッセージを持っています。ヴィジュアルとコピー、そしてロゴが組み合わさり、明確なメッセージと共に考えさせる余白を残します。このバランスが強く印象に残る理由です。


展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」05
(1996年)
写真左は、ソフィア・コッポラさんが
フォトグラファーとして起用されたポスター。
写真右のアートディレクターは、信藤三雄さん。
 
 
展覧会では100点以上のポスターが展示され、それぞれがその時代の空気を感じさせます。
さらに、ポスターでしか見たことがなかったヴィジュアルのCMが観られたことも貴重な体験でした。この展示を通じて、過去から現在までのパルコの広告が持つ魅力と歴史を体感できる貴重な機会です。 

「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」は、PARCO MUSEUM TOKYOにて2023年12月4日(月)まで開催されています。(入場無料)


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展覧会「ワールド・クラスルーム」01

森美術館開館20周年記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」を観てきました。展覧会のタイトルには、現代アートの国語・算数・理科・社会とありますが、会場は「国語」、「社会」、「哲学」、「算数」、「理科」、「音楽」、「体育」、「総合」の8つのセクションで構成されています。

展示されている作品は、それぞれのセクションにふさわしいものが集められており、社会問題を扱った作品や問題提起をする作品など、現代アートが持つ多くの問いを投げかけています。会場で一つ一つの作品と向き合い、考えを巡らせる貴重な体験となりました。また、展示作品の半数以上が森美術館のコレクションであり、森美術館だからこそ実現した展覧会と言えます。

展覧会「ワールド・クラスルーム」02
国語のセクションの、ワン・チンソン(王慶松)の
『フォロー・ミー(Follow Me)』(2003年)
今回の展覧会のメインビジュアルとして使われています。
実物は思っていたより小さな作品でした。


印象に残る作品は多数ありましたが、職業柄面白いと思ったのが、社会のセクションの「ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト(Jakarta Wasted Artists)」による作品、『グラフィック・エクスチェンジ(Graphic Exchange)』です。
本作はジャカルタを拠点に活動する4名のクリエイターから成る「ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト」のプロジェクトで、商店や事業者などの看板を譲り受け、代わりに新しい看板のデザインと制作を請け負うというものです。

展覧会「ワールド・クラスルーム」03
実際に譲り受けた看板37枚(2015年)

展覧会「ワールド・クラスルーム」04
交渉の様子などを納めた記録映像(2015年)


このプロジェクトに賛同する事でクライアントは自分達の要望に適った新しい看板を手に入れる事ができます。そしてアーティスト側にとっては作品として発表するだけでなく、ビジュアル・ヒストリーとしてアーカイブすることができる非常に意味のあるプロジェクトとなっています。この作品は、商業的な看板をアートに変換することで、都市空間やコミュニティに新たな価値を与える試みだと思いました。


展覧会「ワールド・クラスルーム」05
哲学のセクションの、李禹煥(リ・ウファン)の
『対話』(2017年)と『関係項』(1968/2019年)
『関係項』は、重ねられた鉄板とガラス板の上に石が置かれている作品です。
人工素材と自然素材を用いて、異なる要素が出来事として関係し合う様子を現しています。
近年の作品なので、昨今の社会情勢と重ね合わせて考えずにはいられませんでした。


展覧会「ワールド・クラスルーム」06

「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」は、森美術館にて2023年9月24日(日)まで開催されています。


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「ヘザウィック・スタジオ展」01

「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」を観てきました。
ロンドンで設立されたデザイン集団、ヘザウィック・スタジオの日本初の展覧会です。

以下の6つのセクションで構成されていて、それぞれのセクションは独自のテーマを持ち、特定の要素を展示しています。
 
1. ひとつになる
2. みんなとつながる
3. 彫刻的空間を体感する
4. 都市空間で自然を感じる
5. 記憶を未来へつなげる
6. 遊ぶ、使う

この展覧会では、ヘザウィック・スタジオの主要プロジェクト28件が展示されていました。スタジオのデザインは、自然界のエネルギーや建築物の記憶を取り入れつつ、都市計画のような大規模プロジェクトでも「ヒューマン・スケール(wellbeing)」を重視しています。 


「ヘザウィック・スタジオ展」02
電気自動車のコンセプトカー「エアロ」


「ヘザウィック・スタジオ展」03
2021年に完成した「サウザンド・ツリーズ」(上海)の展示風景
 

「ヘザウィック・スタジオ展」04
椅子「スパン」。会場では実際に座ることができます。


ヘザウィック・スタジオのデザインの原点は、「魂がこもった建築(building soulful)」であり、人々が集い、対話し、楽しむための空間を創造することにあります。彼らは、ミース・ファン・デル・ローエの「レス・イズ・モア」(少ない方が豊か)という考え方に異を唱え、装飾やデザインではなく、忘れがたい造形や細部の仕上げ、質感ある素材を通じて共感される建築を目指してきました。

モダニズム建築は、機能性や合理性を重視しシンプルで直線的なデザインが特徴です。一方、ポストモダン建築はデザイン性や装飾性を重視し、曲線的な形状や個性的なデザインが多く見られます。この対比についても非常に多くのことを考えさせられる展覧会でした。
 
「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」は、東京・六本木の東京シティビューにて2023年6月4日(日)まで開催されています。


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「マリー・クワント展」01

世界巡回展「マリー・クワント展」を観てきました。
本展はロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)で開催され、約40万人が訪れた展覧会です。今回はその日本版で、約100点の衣服を中心にファッションデザイナーとしての業績が展示されていました。


「マリー・クワント展」01
ベストとショートパンツのアンサンブルを着るツイッギー(1966年)


1960年代「スウィンギン・ロンドン」のファッションは、2020年代になった現在でも十分に通用する洗練を感じさせます。
しかし、その真価は併せて展示されているモノクロ写真、実際にモデルが着用している写真で知ることに大きな価値があります。やはり服は実際に着用して完成形となるのであり、作り手のヴィジョンが机上に終わらず、使用イメージまできちんと視野におさめていることが必須なのでしょう。
そして、モノクロ写真は「2020年代にも通用するほどの洗練」にカルチャー・アーカイヴ的な価値を付与してくれます。「スウィンギン・ロンドン」が流行ではなく、一つの文化的潮流であることを伝えているからです。
私はグラフィックデザイナーの視点から、当時のデイジーのロゴのついたパッケージやメイクアップの解説書、ショッピングバッグなども興味深く感じました。

この展覧会では「ファッションデザイナーとしてのマリー・クワント」だけにおさまらず、ブランドを成功に導いた起業家としてのストーリー、フェミニストとしての活動など、彼女の総体が展示されています。
 
起業家としては、後に夫となるアレキサンダー・プランケット・グリーンと友人で実業家のアーチー・マクネアと組み「バザー」をオープンさせたこと、誰にでも手が届く既製服の大量生産を実現したこと、ブランドロゴの先駆けとなったデイジーの花のマークを商標登録し、ライセンスビジネスを始めたことなどが取り上げられています。
アメリカのビジネスパートナーからは効率性や価格設定、サイズ感などを学び、お返しにイギリス的「クール」(アメリカの消費者が憧れる、ひねりのある個性)を教えたそうです。
マリー・クワントが主にファッションで活躍したのは、自身のブティック「バザー」をオープンした1955年から1969年の閉店までの間です。その後はグローバル展開し、1975年からは収益性の高い化粧品やレッグウェアなどのライセンスビジネスに専念します。
「マリークワント」のコスメが日本に上陸したのは1971年でした。それ故に日本ではファッションよりコスメの印象が一般的でしょう。

フェミニストとしての活動は、平等な権利を求める闘争が盛んになっていた時代に、新しい女性の役割を率先して演じ、発言し続けました。ほとんどの女性が銀行口座やクレジットカードを持てなかった当時、服に「イングランド銀行」「当座貸し越し」「小切手帳」と名前をつけ、男女間の不平等を皮肉っているのには驚かされます。ウイットに富んだ言葉選びのセンスもマリー・クワントの人柄として、強く印象に残りました。

今回の展示会は鋭敏さと洞察を併せ持つマリー・クワントという人を学び、翻って2020年代を生きる一個人として、彼女の生きた躍動する時代の空気を体感した貴重な機会となりました。

「マリー・クワント展」03

「マリー・クワント展」は 2023年1月23日(日)まで、渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。

【関連URL】
マリー・クワント展 | Bunkamura

グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM

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