グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

タグ:ファッションデザイン

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』01

ブレット・モーゲン監督・製作・編集のドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』を観てきました。

モーゲン監督は、デヴィッド・ボウイ財団が保有する膨大な映像にアクセスすることを許され、全ての映像を見るために2年もの歳月を費やしています。そして、その中から貴重な映像を厳選し、40曲にわたるボウイの名曲で構成された映画を作り上げました。音楽プロデュースはボウイの楽曲をプロデュースしてきたトニー・ヴィスコンティが手がけ、音響は映画『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞を受賞したポール・マッセイが担当しています。

本作はただのドキュメンタリーではなく、変化し続けるボウイの人生、音楽やライブパフォーマンス、クリエイティブを追体験するような映像になっていました。監督の言葉によると、本作は壮大なIMAX体験となるような映画を目指しているとのことで、映像も音楽も見る者を圧倒する仕上がりになっています。しかし、当時の映像とIMAXのスクリーンでは技術的なミスマッチが生じます。そういったミスマッチや映像のクオリティを馴染ませるために監督は問題を逆手に取り、イメージヴィジュアルを挟み込みコラージュのような映像編集を施すことで現代の映像作品に必要な新たな意味を創出しました。

本作では、全編にわたってボウイのナレーションが流れます。ボウイの言葉には哲学的な要素や予見的な言葉もありそのどれもが印象的なのですが、映像と字幕を追うのが大変なので見返したくなる箇所も多くありました。予告でも使用されている「大切なのは何をするかで、時間のあるなしや、望みなんか関係ない」というボウイの核心に触れたものは特に印象に残っています。

この映画は、事実を詳細に説明するものや伝記映画ではないため、ボウイを知らない人が見ても楽しめるかどうかは正直わかりません。しかし、ファンであれば、チャレンジングな構成によって大いに楽しむことができるでしょう。IMAXで鑑賞することをおすすめします。
 

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』02
ポスターデザインには、
山本寛斎さんの衣装をまとったボウイの写真が使用されており、
鋤田正義さんが撮影を担当しています。
 

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』04
映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』03
渋谷パルコでは、映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』の公開に合わせて、デヴィッド・ボウイ公式グッズ Pop-up Storeもオープンしていました。
※期間:2023年3月3日(金)~4月9日(日)まで。





3/24 (fri) 全国公開!『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』90秒予告編 - YouTube




【ライブシーン収録】『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』本編映像 “レッツ・ダンス”【3.24(fri)公開】 - YouTube


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展覧会「マリー・ローランサンとモード」01

展覧会「マリー・ローランサンとモード」を観てきました。

「マリー・ローランサンとモード」は、1910年から1930年代にかけてのモードや芸術の世界を詳細に展示しています。主に1920年代のパリを取り上げ、フランスの画家 マリー・ローランサンとファッションデザイナー ココ・シャネルが象徴的な存在として紹介されていました。彼らの作品を通じて、当時の社交会や前衛芸術家たち(ピカソ、シャガール、ジャン・コクトーなど)との交流、女性の社会進出や大衆消費社会の到来など、激動の時代を垣間見ることができます。


展覧会「マリー・ローランサンとモード」02
『わたしの肖像』(1924年)
1924年6月、ローランサン41歳の自画像。
パリ社交界で人気の肖像画化となった頃の作品。
淡い色彩で構成されている。


1920年代は、女性の社会進出が進みました。景気の回復によって大衆消費社会が到来し、街にはモダンガールが出現します。また、国境を超えて芸術家たちがパリに集まりました。
社交会の女性たちはシャネルのドレスに身を包むことがステイタスとなり、マン・レイに写真を撮らせています。一方、マン・レイはオートクチュールに身を包む女性たちの肖像写真で人気を博しました。

しかし1930年代に入ると、世界恐慌とファシズムの躍進という不穏な空気の中、ファッションはフェミニンへと回帰していきます。ローランサンの人気にも翳りが見え始め、作風も変化していきました。色調は明快で強いものになっています。

展覧会「マリー・ローランサンとモード」03
『シャルリー・デルマス夫人』(1938年)
グレーに溶け込む淡いピンクや青が、明るく強い色彩に代わり、
人物もはっきりと描かれるようになった。


また、写真製版の技術が進歩したのもこの頃で、雑誌「VOGUE(ヴォーグ)」などがファッション写真を掲載し始めています。当時の「VOGUE」に掲載されていた、シャネルの広告デザインも展示されていました。


ローランサンが近年に与えた影響として、シャネルの2011のコレクションが作品と映像で紹介されています。1983年から36年間にわたりシャネルのアーティスティック・ディレクターを務めたカール・ラガーフェルドは、ローランサンの色彩に着想を得て数回にわたりコレクションを発表しました。このように、ローランサンとその作品は、現代のファッションにも大きな影響を与え続けています。

展覧会「マリー・ローランサンとモード」04
『ピンクとグレーの刺繍が施されたロングドレス』(2011年)
カールラガーフェルドによる2011年春夏オートクチュールコレクションより

展覧会「マリー・ローランサンとモード」05
『黒いサテンのリボンの付いたピンクのフェイユ・ドレス』(2011年)
カールラガーフェルドによる2011年春夏オートクチュールコレクションより


今回もっとも注目した作品は、シャネルが当時流行画家であったローランサンに依頼した作品「マドモアゼル・シャネルの肖像」です。
シャネルは出来上がりに満足せず描き直しを依頼しましたが、ローランサンも拒否したためシャネルが受け取ることはありませんでした。ローランサンは後に、「シャネルはいい娘だけど、オーヴェルニュの田舎娘よ。あんな田舎娘に折れてやろうとは思わなかった。」と語ったと伝えられています。シャネルも強い女性ですが、ローランサンもなかなかです。柔らかで繊細なイメージの作品とのギャップがかなり面白いと思いました。

展覧会「マリー・ローランサンとモード」06
『マドモアゼル・シャネルの肖像』(1923年)
シャネルがローランサンに依頼した作品。


展覧会「マリー・ローランサンとモード」07

「マリー・ローランサンとモード」は、2023年4月9日(日)まで、渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。
その後、2023年4月16日(日)〜6月11日(日)まで、京都の京セラ美術館に巡回します。


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「マリー・クワント展」01

世界巡回展「マリー・クワント展」を観てきました。
本展はロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)で開催され、約40万人が訪れた展覧会です。今回はその日本版で、約100点の衣服を中心にファッションデザイナーとしての業績が展示されていました。


「マリー・クワント展」01
ベストとショートパンツのアンサンブルを着るツイッギー(1966年)


1960年代「スウィンギン・ロンドン」のファッションは、2020年代になった現在でも十分に通用する洗練を感じさせます。
しかし、その真価は併せて展示されているモノクロ写真、実際にモデルが着用している写真で知ることに大きな価値があります。やはり服は実際に着用して完成形となるのであり、作り手のヴィジョンが机上に終わらず、使用イメージまできちんと視野におさめていることが必須なのでしょう。
そして、モノクロ写真は「2020年代にも通用するほどの洗練」にカルチャー・アーカイヴ的な価値を付与してくれます。「スウィンギン・ロンドン」が流行ではなく、一つの文化的潮流であることを伝えているからです。
私はグラフィックデザイナーの視点から、当時のデイジーのロゴのついたパッケージやメイクアップの解説書、ショッピングバッグなども興味深く感じました。

この展覧会では「ファッションデザイナーとしてのマリー・クワント」だけにおさまらず、ブランドを成功に導いた起業家としてのストーリー、フェミニストとしての活動など、彼女の総体が展示されています。
 
起業家としては、後に夫となるアレキサンダー・プランケット・グリーンと友人で実業家のアーチー・マクネアと組み「バザー」をオープンさせたこと、誰にでも手が届く既製服の大量生産を実現したこと、ブランドロゴの先駆けとなったデイジーの花のマークを商標登録し、ライセンスビジネスを始めたことなどが取り上げられています。
アメリカのビジネスパートナーからは効率性や価格設定、サイズ感などを学び、お返しにイギリス的「クール」(アメリカの消費者が憧れる、ひねりのある個性)を教えたそうです。
マリー・クワントが主にファッションで活躍したのは、自身のブティック「バザー」をオープンした1955年から1969年の閉店までの間です。その後はグローバル展開し、1975年からは収益性の高い化粧品やレッグウェアなどのライセンスビジネスに専念します。
「マリークワント」のコスメが日本に上陸したのは1971年でした。それ故に日本ではファッションよりコスメの印象が一般的でしょう。

フェミニストとしての活動は、平等な権利を求める闘争が盛んになっていた時代に、新しい女性の役割を率先して演じ、発言し続けました。ほとんどの女性が銀行口座やクレジットカードを持てなかった当時、服に「イングランド銀行」「当座貸し越し」「小切手帳」と名前をつけ、男女間の不平等を皮肉っているのには驚かされます。ウイットに富んだ言葉選びのセンスもマリー・クワントの人柄として、強く印象に残りました。

今回の展示会は鋭敏さと洞察を併せ持つマリー・クワントという人を学び、翻って2020年代を生きる一個人として、彼女の生きた躍動する時代の空気を体感した貴重な機会となりました。

「マリー・クワント展」03

「マリー・クワント展」は 2023年1月23日(日)まで、渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。

【関連URL】
マリー・クワント展 | Bunkamura

グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM



ユニクロのプロジェクト「SPRZ NY」から、イームズとのコラボレーション『SPRZ NY EAMES』が発売されています。

ユニクロ・イームズ・プロダクトデザイン・ファッションデザイン
ユニクロとイームズのコラボレーション、『SPRZ NY EAMES』登場
20世紀のデザイン界の巨匠イームズの世界観をTシャツにのせ、
ニューヨークから世界に発信 - UNIQLO ユニクロ


世界中のクリエイターやデザイン好きに多くの支持を集める、イームズ夫妻の製品は高額なものが多いのですが、ユニクロで商品化されたものはどれも手頃な価格設定になっていました。

商品のラインナップは、「メンズTシャツ」9種(1,500円+税)、「ストール」3種(1,990円+税)、「ブランケット」4種(1,990円+税)、「ルームシューズ」4種(990円+税)です。
店頭で実物を見てみると予想以上のクオリティーで、どれもイームズの良さが出ていました。

ユニクロ・イームズ・プロダクトデザイン・テキスタイルデザイン

私は「ブランケット」を3種購入しました。
テキスタイル・デザインを手掛けたレイ・イームズによるデザインですが、当時のデザインはそのままに、現代の生地にプリントされたものです。枚数を多く揃えてインテリアのアクセントとして使うのも良いですね。
実物のクオリティですが、私個人の見解では申し分のないものと思いました。
優れたテキスタイルデザインは、何年も経った後に製品化されてもやはり素晴らしいものです。
良いコンディションの商品入手が難しく、絶対数の減少によって今後も高額になっていくであろう現状において、今回、イームズ関連のコレクターズ・アイテムとしてはかなり安価に入手できるのは嬉しいですね。
9月25日(月)の発売からしばらく経っているので、お目当ての商品があれば早めに購入した方が良さそうです。



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2015年8月21日に「西武渋谷店」がリニューアルオープンしました。

しばらく経ちましたが、その覚え書きです。


注目したのは

「アート&デザイン」

というテーマで、「アート&デザインを体感できる空間に」リデザインする、

というものです。


世界的なアーティスト、デザイナー、建築家とコラボしたエントランスやフロアは、美術館のように生まれ変わっていました。

西武渋谷店・リニューアルオープン・パンフレットデザイン
上記写真のパンフレットは、リニューアルオープン時に配布されていました。

左のメインビジュアルは、ドイツを拠点に世界で活躍する、音楽・映像アーティストの「カールステン・ニコライ(Carsten Nicolai)」によるものです。


最近のファッションはファスト・ファッションに顕著なように画一的な傾向にありますが、パンフレットのコピー「アートなサプライズ。」は、そういったものとは一線を画する宣言のように感じられました。


また、別のコピーには

「カイモノはアートだ。ウリモノはデザインだ。」

とあります。


美術館でアートを味わうように、選りすぐりの商品を選ぶという行為を、美術展になぞらえているのかと思いましたが、買い物という行為自体を「アート」、商品という売り物を「デザイン」と表現しているのは、強く印象に残りました。


このような西武の一連の展開は、顧客にも新たな視点をもたらします。

買い物という体験には多くのものが含まれます。

それぞれに特別な意味を持たせること、購買までの導線に最大限配慮することは買い物という行為自体を豊かにして、それが顧客満足を高めることに強く結びつくと感じました。

西武渋谷店「カールステン・ニコライ」アートゲート1
今回のリニューアルで一番目を引いたのは、「カールステン・ニコライ」が制作した、A館1階の「アート・ゲート」です。変化し続ける鮮やかな色彩は、観ていて飽きることがありません。テーマは「一期一会」で、二度と同じ映像が映し出されることはないそうです。

西武渋谷店「カールステン・ニコライ」アートゲート2

「カールステン・ニコライ」は、私が近年注目しているアーティストのひとりです。

「アルヴァ・ノト(Alva Noto)」名義での坂本龍一とのコラボ、レーベル「ラスターノートン(raster-noton)」でのミュージシャンとしての活動、サウンドアートのアーティストとしての作品発表、今回のようなアートワークなど、多才な活動をしています。


私にとっては、この「カールステン・ニコライ」の抜擢こそが、今回の西武渋谷店リニューアルオープンに注目した最大の理由です。

西武渋谷店・フロアガイド・パンフレットデザイン
フロアガイドのパンフレットデザイン




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http://designslim.net/

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Art meets Life 西武渋谷店

西武渋谷店トップ|西武・そごう


●グラフィックデザイン・パンフレット・カタログ・冊子・ロゴなどのデザイン制作事例 | グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM 東京・神奈川 http://designslim.net/works_cat/graphic-design/

●パンフレットデザイン 制作事例 | グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM 東京・神奈川 http://designslim.net/works_cat/pamphlet-design/

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