グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

タグ:ポスターデザイン

parco-advertising-design01

「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」を観てきました。
渋谷PARCO開業50周年記念のこの展覧会は、過去のCMやポスターから現代のビジュアルまで幅広く展示されています。

展示内容には各時代にキーワードを付されており、「2000年代以降~(アート)」から「1990年代(渋谷)」、「1980年代(広告)」、そして「1970年代(予言)」へと時代をさかのぼる構成で、パルコの代表的な広告作品が展示されていました。

展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」02
(1977年)
アートディレクターは、長谷川好男さん。
イラストレーターは、山口はるみさん。
 
展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」03
(1970年代)
写真左3点のアートディレクターは、石岡瑛子さん。
 
 
私は90年代に上京してから実際のパルコのCMやポスターを見るようになりましたが、今回の展示で70年代や80年代の作品が印象に残っていることに改めて気付かされました。
石岡瑛子さんや山口はるみさん、井上嗣也さんの作品は、実際に見たことはなくても書籍やギャラリーで何度も目にしていたからかもしれません。


展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」04
(1980年代)
写真右3点のアートディレクターは、井上嗣也さん。 

 
パルコの広告はシンプルな構成ながら、強いメッセージを持っています。ヴィジュアルとコピー、そしてロゴが組み合わさり、明確なメッセージと共に考えさせる余白を残します。このバランスが強く印象に残る理由です。


展覧会「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」05
(1996年)
写真左は、ソフィア・コッポラさんが
フォトグラファーとして起用されたポスター。
写真右のアートディレクターは、信藤三雄さん。
 
 
展覧会では100点以上のポスターが展示され、それぞれがその時代の空気を感じさせます。
さらに、ポスターでしか見たことがなかったヴィジュアルのCMが観られたことも貴重な体験でした。この展示を通じて、過去から現在までのパルコの広告が持つ魅力と歴史を体感できる貴重な機会です。 

「『パルコを広告する』1969-2023 PARCO 広告展」は、PARCO MUSEUM TOKYOにて2023年12月4日(月)まで開催されています。(入場無料)


【関連URL】 



映画『アステロイド・シティ』

ウェス・アンダーソン監督最新作『アステロイド・シティ』を観てきました。
ウェス・アンダーソンは近年、パステル調のポップでカラフルな色彩とシンメトリーの構図の多用が特徴的な映画監督です。その実際の色合いを確認するため映画館に足を運び、シンメトリーの構図を真正面から捉えるためにど真ん中の席で鑑賞しました。
音楽も効果的に使用され、オープニングから観ているだけで楽しい作品です。

背景はCGに見えるかもしれませんが、実際にスペインのチンチョン郊外にセットを組んで撮影されています。ウェス・アンダーソンのこだわりの色彩が表現され、カラーグレーディングにより彼が思い描くカラーが一層際立っていました。
さらに、彼の映画は色や構図だけでなく、音楽、衣装、小道具など、細部にわたって非常に注意が払われています。

最近のSNS上では、ウェス・アンダーソン風の写真が話題になっていますが、本家のこだわりはさすがに卓越しています。字幕を読みながら二重構造の複雑なストーリーを追うのと映像を堪能するのに忙しいのですが、それがまた楽しい体験でした。
ストーリーや映像を再確認するために、もう一度見たいと思う作品です。


9/1(金)公開『アステロイド・シティ』本予告



グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM


映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』01

ブレット・モーゲン監督・製作・編集のドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』を観てきました。

モーゲン監督は、デヴィッド・ボウイ財団が保有する膨大な映像にアクセスすることを許され、全ての映像を見るために2年もの歳月を費やしています。そして、その中から貴重な映像を厳選し、40曲にわたるボウイの名曲で構成された映画を作り上げました。音楽プロデュースはボウイの楽曲をプロデュースしてきたトニー・ヴィスコンティが手がけ、音響は映画『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞を受賞したポール・マッセイが担当しています。

本作はただのドキュメンタリーではなく、変化し続けるボウイの人生、音楽やライブパフォーマンス、クリエイティブを追体験するような映像になっていました。監督の言葉によると、本作は壮大なIMAX体験となるような映画を目指しているとのことで、映像も音楽も見る者を圧倒する仕上がりになっています。しかし、当時の映像とIMAXのスクリーンでは技術的なミスマッチが生じます。そういったミスマッチや映像のクオリティを馴染ませるために監督は問題を逆手に取り、イメージヴィジュアルを挟み込みコラージュのような映像編集を施すことで現代の映像作品に必要な新たな意味を創出しました。

本作では、全編にわたってボウイのナレーションが流れます。ボウイの言葉には哲学的な要素や予見的な言葉もありそのどれもが印象的なのですが、映像と字幕を追うのが大変なので見返したくなる箇所も多くありました。予告でも使用されている「大切なのは何をするかで、時間のあるなしや、望みなんか関係ない」というボウイの核心に触れたものは特に印象に残っています。

この映画は、事実を詳細に説明するものや伝記映画ではないため、ボウイを知らない人が見ても楽しめるかどうかは正直わかりません。しかし、ファンであれば、チャレンジングな構成によって大いに楽しむことができるでしょう。IMAXで鑑賞することをおすすめします。
 

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』02
ポスターデザインには、
山本寛斎さんの衣装をまとったボウイの写真が使用されており、
鋤田正義さんが撮影を担当しています。
 

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』04
映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』03
渋谷パルコでは、映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』の公開に合わせて、デヴィッド・ボウイ公式グッズ Pop-up Storeもオープンしていました。
※期間:2023年3月3日(金)~4月9日(日)まで。





3/24 (fri) 全国公開!『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』90秒予告編 - YouTube




【ライブシーン収録】『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』本編映像 “レッツ・ダンス”【3.24(fri)公開】 - YouTube


 【関連URL】 

『THE FIRST SLAM DUNK』ポスター1

ようやく、映画『THE FIRST SLAM DUNK』を観てきました。
 
監督の「新しい視点、新しい角度から見た『THE FIRST SLAM DUNK』を作りました。」との言葉通り、井上雄彦さん(原作・脚本・監督)の映画版は今までに見たことのない映像表現になっていました。これは映画づくりに関しては素人だった監督だからこそ実現した表現で、アニメのベテラン監督だったらこのような映像にはなっていなかったでしょう。

オープニングで「The Birthday」の曲(LOVE ROCKETS)がかかり、線で描かれていくキャラクターが動き出す演出は最高に上がります。リアルに作り込まれた試合のシーンで、スポーツ(バスケ)と音楽・音響効果の融合がこんなにも楽しく爽快なのにも驚きました。
 
それにしても、プロデューサーからのオファーが2003年、正式に社内プロジェクト化されたのが2009年、パイロットフィルム4本目で映画化のOKが出たのが2014年、そして映画公開が2022年というのも更に驚きです。これほどの長きにわたって制作されていたのも『SLAM DUNK』ほどの人気コンテンツ故のこだわりがあったからでしょう。
 
今回久しぶりに漫画版『SLAM DUNK』を読み直してから行きましたが、忘れていたエピソードも多く、漫画も映画も新鮮な気持ちで楽しめました。
 

『THE FIRST SLAM DUNK』ポスター2
スコアボード風のカレンダーが付いたポスター。
メインヴィジュアルは、今回の主人公「宮城リョータ」を中心に据えている。
映画版を観て、私の中でのリョータのイメージはかなり変わりました。
(大変だったんだね、リョーちん。) 


『THE FIRST SLAM DUNK』ポスター3
キャラクターひとりづつのポスター。


 【関連URL】
映画『THE FIRST SLAM DUNK』 

グラフィックデザイン事務所 DESIGN+SLIM

「ゲルハルト・リヒター展」ポスターデザイン

東京国立近代美術館で開催されている「ゲルハルト・リヒター展」を観てきました。
ゲルハルト・リヒターは生誕90年、画業60年になるドイツの画家で、現代で最も重要な画家とされています。

日本では16年ぶり、東京の美術館では初めての大規模な展覧会です。
今回の展覧会では海外の美術館のように、一部の作品を除くほとんどの作品の撮影が許可されていました。

展示されている作品は油絵だけではなく、ガラスや鏡を用いたもの、写真やデジタルプリントまで、様々な素材が使われています。
ひとりの作家の展覧会とは思えないほど、多種多様な表現方法で制作された作品が展示されていました。

リヒターは新たな表現方法を模索し続けると同時に、ドイツの歴史上の事件を扱った難しい題材の作品を多数制作するなど、常に挑戦し続けた画家でもあります。


「ゲルハルト・リヒター展」02
フォト・ペインティング『モーターボート(第1ヴァージョン)(79a)』
写真を投影して描いた作品。


「ゲルハルト・リヒター展」03
『アブストラクト・ペインティング(778-4)』


「ゲルハルト・リヒター展」04
『ストリップ(930-3)』
近くで観るのと距離を置いて観るのとでは、全く違った視覚効果が得られます。


この展覧会については数多くの媒体で特集されていたので、あちこちでリヒター作品を目にする機会がありましたが、実物を観ると全く違う印象の作品も多数ありました。
中でも視覚効果を狙った反射を利用したインスタレーション作品『8枚のガラス』は、観る角度や映り込む空間によってかなり違う印象を受けます。
(撮影はしましたが、鑑賞者が映り込んでいるので写真は掲載しておりません。)


「ゲルハルト・リヒター展」05
『4900の色彩』


「ゲルハルト・リヒター展」06
『アブストラクト・ペインティング(857-3)』と『頭蓋骨(548-1)』


「ゲルハルト・リヒター展」07
『ビルケナウ(937-1)(937-2)(937-3)(937-4)』
 リヒターの集大成とも言える最重要作品です。
アウシュヴィッツ強制収容所で撮影された4枚の写真を基に描き、
その上に絵の具が重ねられています。
『ビルケナウ』の展示エリアでは、基となったアウシュヴィッツの写真(複製)4枚、
『グレイの鏡』と複製写真の『ビルケナウ』も展示されていました。
『グレイの鏡』にその写真や作品、鑑賞者までも映り込む会場構成になっています。


「ゲルハルト・リヒター展」08
最も印象に残った『ビルケナウ』の中の一枚(937-2)。
ホロコーストを想起させる、
言葉に置き換えることができない本質的な恐怖を感じる作品でした。


今回の展示は章構成などに基づいた観る順序は決められていないため、どのエリアからどのように鑑賞するかは鑑賞者自身に委ねられています。
その上でキーワードに沿って展示された会場構成は、映り込みなどの視覚効果も計算し尽くされていて見事な展示内容となっていました。


「ゲルハルト・リヒター展」展覧会デザイン

「ゲルハルト・リヒター展」は、10月2日(日)まで、東京国立近代美術館で開催されています。

【関連URL】

↑このページのトップヘ