グラフィックデザイナーのノート

松 利江子(フリーランス・グラフィックデザイナー)の公開ノート

展覧会「まなざしの奇跡」01

「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」を鑑賞してきました。
同展は、日本の女性写真家を特集した書籍『I'm So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』の刊行に合わせて各国で開催された展覧会の凱旋記念展です。

今回の展示を見て、まず印象に残ったのは、日本では古くから多くの女性写真家が活躍していたということです。私自身、これまで仕事で関わってきたカメラマンは男性の方が多かったため、写真家という職業に対して、どこか男性が多い世界というイメージを持っていました。しかし実際には、早い時代から女性たちもカメラを手にし、それぞれの視点で社会や人間、日常を捉えてきたことがわかります。そして何より、作品のクオリティの高さに驚かされました。

展示は、Chapter1「『写真』をめぐる冒険 想像力を解き放て!」、Chapter2「『記録と記憶』をめぐる冒険 目に見えないものに向かって」、Chapter3「『女性』をめぐる冒険 ジェンダー、身体、セクシュアリティ」、Chapter4「『日常』をめぐる冒険 見過ごされた風景の中で」という4つの章で構成されています。

こうしてテーマごとに作品を見ていくと、写真とは単に目の前にあるものを美しく撮るだけの表現ではないことを、あらためて感じます。何を主題とするのか、どこに目を向けるのか、どのような視点で切り取るのか。そして、そこにどんなアイディアを込めるのか。写真の魅力は、撮影技術だけではなく、その前にある「何を見るか」「何を伝えたいか」という発想にあるのだと思います。

素晴らしい作品には、説明を読まなくてもこちらへ訴えかけてくるものがあります。静かな写真なのに、なぜか目が離せない。作品の背景を知りたくなる。そうした力は、構図や光、色、質感といった視覚的な要素だけではなく、作者が何を見つめ、何を残そうとしたのかという「まなざし」から生まれているように感じます。

これはグラフィックデザインにも通じる部分があります。デザインでも、きれいにつくることはもちろん大切ですが、それだけでは強い表現にはなりません。何を伝えるのか、何を一番大切に見せるのか。その主題があって初めて、色や書体、写真、レイアウトといった具体的な表現方法が決まっていきます。技術は表現するための手段であり、その前にある視点や考え方こそが作品の核になるのだと思います。

なかでも強く印象に残ったのが、石内都さんの作品です。石内さんは、「ハッセルブラッド国際写真賞」をアジアの女性として初めて受賞した写真家です。大きなサイズで展示された作品には、被写体の細かな質感や時間の痕跡までこちらへ迫ってくるような、強い迫力がありました。世界で評価されている方の作品を実際に目の前にすると、やはり画面越しや印刷物で見るものとは違う力があります。作品そのものだけでなく、どの大きさで、どのように見せるかまで含めて表現なのだと感じました。

また、「記録と記憶」「ジェンダー」「身体」「セクシュアリティ」「日常」といったテーマを通して、写真は目に見えるものだけでなく、記憶や感情、社会の空気まで写し出すことができるのだと気づかされます。日常の何気ない風景も、誰がどのような視点で見るかによって、まったく違う意味を持ちます。
新しいものを生み出すことだけが、アイディアではありません。誰もが見ているものを少し違う角度から見ること。見過ごされているものに気づくこと。当たり前だと思っていたものを、もう一度見つめ直すこと。そこからも、新しい表現は生まれます。

「まなざしの奇跡」というタイトルの通り、今回の展示で出会ったのは、女性写真家たちがそれぞれの時代、それぞれの場所から世界へ向けてきた多様な「まなざし」でした。写真でもデザインでも、表現の出発点にあるのは、「何を見るのか」「何を伝えたいのか」ということなのだと思います。
何を主題として選び、それをどのように表現するのか。技術の先にある視点や発想の大切さを、あらためて考えさせられた展覧会でした。


Chapter1:「写真」をめぐる冒険 想像力を解き放て!

展覧会「まなざしの奇跡」02

展覧会「まなざしの奇跡」03

展覧会「まなざしの奇跡」04


Chapter2:「記録と記憶」をめぐる冒険 目に見えないものに向かって

展覧会「まなざしの奇跡」05

展覧会「まなざしの奇跡」06


Chapter3:「女性」をめぐる冒険 ジェンダー、身体、セクシュアリティ

展覧会「まなざしの奇跡」07

展覧会「まなざしの奇跡」08


Chapter4:「日常」をめぐる冒険 見過ごされた風景の中で

展覧会「まなざしの奇跡」09

展覧会「まなざしの奇跡」10


●出展作家(50音順)
石内都/石川真生/今井壽惠/岩根愛/潮田登久子/岡上淑子/岡部桃/オノデラユキ/片山真理/川内倫子/小松浩子/今道子/澤田知子/志賀理江子/杉浦邦恵/多和田有希/常盤とよ子/長島有里枝/楢橋朝子/西村多美子/蜷川実花/野口里佳/野村佐紀子/原美樹子/ヒロミックス/藤岡亜弥/やなぎみわ/山沢栄子/米田知子/渡辺眸
島隆(※特別出品)

「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」は、渋谷ヒカリエホールにて2026年8月26日(水)まで開催されています。


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展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」01

織田コレクション「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」を鑑賞してきました。
ハンス・ウェグナーは、生涯で500点以上の家具作品を残したデザイナーです。本展は、国内最大規模ともいえる回顧展であり、彼の思想・技術・美意識を実物を通して体感できる、非常に貴重な機会でした。本記事では、展示構成に沿って、ウェグナーという人物とその仕事を4つの章に分けて振り返ります。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」02

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」03
「ザ・チェア JH503」1940年



Chapter 1:ハンス・ウェグナーとは何者か?

ハンス・ウェグナーは、20世紀を代表するデンマークの家具デザイナーです。

彼のキャリアは、14歳で木工マイスター「H.F.スタールベルク」の徒弟となったことから始まります。
17歳で「ファーストチェア」を制作し、18歳で木工マイスターの資格を取得。10代のうちに、すでに職人としての確かな知識と技術を身につけていました。
つまり、ウェグナーのデザインの根底には、常に「作ることを知っている人の視点」があります。
机上の造形ではなく、木の性質、加工工程、手の動きまでを理解したうえで生まれるフォルム。その誠実さが、椅子という日用品に静かな説得力を与えているのだと感じました。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」16
「ファーストチェア(2024年復刻版)」1931年(右)と
「セカンドチェア(2024年復刻版)」1938年(左)は、
本展のために復刻された。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」04

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」05
本展で展示されている5分の1スケールモデル約160点は、
家具職人の濱田由一氏によるもの。



Chapter 2:クラフツマンシップ

本展で特に印象的だったのが、デンマークの椅子づくりのプロセスに焦点を当てた展示です。

デンマークでは、椅子をデザインする際、5分の1スケールの図面をもとに模型(スケールモデル)を制作します。
それは単なる確認用の模型ではなく、実際の商品化を想定し、実物と同じ工程をなぞるための重要なプロセスです。
制作時間の割り出し、プロポーションの検証、構造に無理がないかの確認。
こうした工程を経ることで、デザインは「美しい案」から「成立する製品」へと磨き上げられていきます。
また、展示されていた「Yチェア」や「ピーコックチェア」などを分解したパーツ展示も、非常に興味深いものでした。
完成形だけでは見えない構造の合理性と職人技。その裏側を知ることで、ウェグナーの椅子がなぜ長く作り続けられているのかが、腑に落ちます。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」06
「Yチェア CH24 パーツ」

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」07
「ピーコックチェア PP550 パーツ」



Chapter 3:名作椅子

ウェグナーは「家具に裏面があってはならない」という言葉を残しています。
どの角度から見ても美しくあること。それは、造形だけでなく、仕上げや構造にまで及ぶ思想です。
会場では、数々の名作椅子をあらゆる角度から鑑賞できる展示が組まれていました。
背面、側面、脚部、接合部。そのすべてが、デザインの一部として丁寧に考え抜かれていることがよくわかります。
また、実際に座ることができる体験コーナーが設けられていたのも、この展示の大きな魅力でした。
視覚だけでなく、身体を通して感じることで、ウェグナーのデザインが「人のための椅子」であることを実感できます。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」08
「ピーコックチェア JH550」

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」09
「ピーコックチェア」の影も美しく展示されている。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」10
「サークルチェア PP130」

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」11
「Yチェア CH24」



Chapter 4:ウェグナーの椅子 1945–1990年

1945年から1990年までの作品を年代順に追う展示では、製造技術の変化とデザインの一貫性の両方が浮かび上がってきます。

手仕事が中心だった時代から、機械化が進んだ時代へ。素材や工程が変わっても、ウェグナーの椅子には常にハンドクラフト的な温かみが宿っています。
1970年代以降、デンマークの家具産業は厳しい時代を迎えますが、それでも彼の椅子が作り続けられている理由。
それは、流行ではなく、人の身体と暮らしに正面から向き合ったデザインだからこそだと感じました。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」14

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」12
「私はシンプルに製作できて、適切な素材が使用され、
誰もが気にいるものを作りたいと考えています。」
家具とともにウェグナーの言葉も紹介されている。

展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」13



ウェグナーという人を感じる展示

会場で流れていた映像の中で、
「一番好きな作品は?」という問いに、ウェグナーが「最新作」と答えていたのが、とても印象的でした。思い描いた通りにできなかった場合、そこで終わりにしない。

作り続け、ブラッシュアップし続ける。その姿勢こそが、500点以上の作品を生み出した原動力なのだと思います。
また、織田憲嗣さんの音声解説からは、ウェグナーのリビングには「こけし」などの日本の伝統工芸が多く、メインの照明には提灯が使われていたことなどが紹介されていました。

「チャイナチェア」を製作していたことからも、アジアへの関心が非常に高かったことがうかがえます。北欧デザインでありながら、どこか日本人の感性に響く理由が、そこにあるように感じました。



展覧会「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」15


おわりに

展示の最後には、物販コーナーにデンマークコーヒー「The Coffee Collective」のスペシャルティ・コーヒーを楽しめるスペースがありました。

この日は「Yチェア」に座って、本日のコーヒー「RESHAD」をいただきました。
椅子に座り、コーヒーを飲みながら、

「良い椅子とは何か」「デザインとは何のためにあるのか」。

そんなことを、自然と考えさせられる時間でした。

織田コレクション「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」は、渋谷ヒカリエホールにて1月18日(日)まで開催されています。


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映画『『ローリング・ストーンズ・アット・ザ・マックス』02

『ローリング・ストーンズ・アット・ザ・マックス』を観てきました。
12月10日(水)、11日(木)の全国IMAX劇場でたった2日間だけの限定公開という特別な機会ということもあり、やはり期待が膨らみます。

本作は1991年に初公開されたライブ映画で、1990年の「スティール・ホイールズ/アーバン・ジャングル・ツアー」を記録した、史上初の長編IMAXライブ映画として知られています。今回の公開にあたっては、IMAX独自のデジタル・メディア・リマスター(DMR)技術による新たなリマスターが施され、完全新規のサウンドミックスによって、往年のライブが現代の劇場環境にふさわしい迫力でよみがえっていました。

35周年という節目にこの映画を観られたことは、個人的にも感慨深いものでした。初来日時のツアーから35年。私自身も当時、東京ドームでの「スティール・ホイールズ・ツアー」に参加しており、あれからこんなに年月が経ったのかと思うと、スクリーンに映し出されるメンバーの姿とともに、忘れていた当時の空気感が鮮明によみがえってきます。

IMAXの巨大スクリーンでは、メンバーはもちろん、バックを支えるミュージシャン、ステージセットや衣装といった細部までが驚くほど鮮明に見えます。観客席からでは決して捉えられないアングルでの撮影も興味深く、ステージ上の温度や熱量が直に伝わってくるようでした。

同行者いわく「演奏と編集が合っていない部分がある」との指摘もありましたが、メンバーへフォーカスした編集として見ると、それはそれで新しい視点として楽しめるという話を聞き、たしかにそうかもしれないと新鮮な気づきがありました。

そして、ビル・ワイマンが脱退し、チャーリー・ワッツは旅立ってしまった今、5人が揃った最後のシーンは胸に迫るものがあり、当時の空気を知る者として言葉にしがたい思いが胸の内に広がりました。圧倒的なパフォーマンスと、IMAXならではの映像・音響の包み込むような臨場感に身を委ねながら、なつかしさとともに深い余韻を味わう鑑賞となりました。

映画『『ローリング・ストーンズ・アット・ザ・マックス』03
リーフレットと入場口で配布されていたカード

上映後には、リーフレットと入場口で配布されていたカードを改めて眺めつつ、この限定公開に立ち会えたことをうれしく思いました。音楽映画としてだけでなく、デザイナーの視点から見ても、当時のステージ表現が立体的に再解釈される貴重な体験だったと感じています。


【Setlist】
01 コンチネンタル・ドリフト(Continental Drift)※オープニングBGV
02 スタート・ミー・アップ(Start Me Up)
03 サッド・サッド・サッド(Sad Sad Sad)
04 ダイスをころがせ(Tumbling Dice)
05 ルビー・チューズデイ(Ruby Tuesday)
06 ロック・アンド・ア・ハード・プレイス(Rock and a Hard Place)
07 ホンキー・トンク・ウィメン(Honky Tonk Women)
08 無情の世界(You Can't Always Get What You Want)
09 ハッピー(Happy)
10 黒くぬれ!(Paint It, Black)
11 2000光年のかなたに(2000 Light Years from Home)
12 悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)
13 ストリート・ファイティング・マン(Street Fighting Man)
14 イッツ・オンリー・ロックン・ロール(It's Only Rock 'n' Roll)
15 ブラウン・シュガー(Brown Sugar)
16 (アイ・キャント・ゲット・ノー)サティスファクション
     ((I Can't Get No)Satisfaction)


●『ローリング・ストーンズ・アット・ザ・マックス』
  特別映像“スタート・ミー・アップ(Start Me Up)”



【関連URL】 



映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』02

映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』を観てきました。
本作は、2024年4月に放送されたNHKスペシャル『Last Days 坂本龍一 最期の日々』をもとに制作された映画で、坂本龍一さんが残した日記を手がかりに、最期の3年半を静かに、丁寧にたどる作品です。

画面には雨や雲、月といった自然のモチーフが繰り返し登場し、そこに重なるナレーション(田中泯さん)や音楽、そしてふっと訪れる静寂が、彼の心の動きや思索の深さをそっと浮かび上がらせます。語りすぎることなく、余白の表現を大切にした構成は、デザインの仕事にも通じる感覚があり、観る側に多くの想像や解釈を委ねる映画だと感じました。

日記に綴られた言葉からは、まだまだやりたいことがたくさんあるのに、思うように時間が残されていないことへの痛みが伝わってきます。しかし同時に、限られた時間の中でもこれほど活動を続けられるのかと驚くほど、多くの創作や行動を重ねていたことにも心を打たれました。音楽を中心に据えながら、ライブ、映画、アートなど多様な表現方法を追求し続けた姿は、デザイナーとして仕事に向き合う自分にも大きな刺激を与えてくれます。

さらに、坂本さんは作品づくりだけでなく、社会活動にも力を注いだ方でした。東日本大震災やウクライナ侵攻といった出来事が起こると、すぐに行動し、メッセージを発信する人で、その姿勢は作品と同等かそれ以上に強いインパクトを与えてくれたように思います。私自身、迷ったときには「坂本龍一ならどう考えるだろう」「何を選ぶだろう」と自分に問いかけることがあり、まるで一つの指標のように存在してきた人でした。亡くなった今でも、その問いかけが消えることはありません。

10代の頃から見続けてきた人が、どのように生き、どのように人生を終えていくのかを見届けることになった今回の映画は、自分にとって大きな節目にもなりました。『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』を読み、この映画を観たことで、ようやく彼が旅立ったことを少しずつ受け入れられるようになった気がします。満月の光のように、坂本さんの言葉や音楽、そして生き方は、これからも静かに、確かに、自分の中で光り続けていくのだと思います。

映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』03
劇場用パンフレットと入口で配布されていたカード。
裏面は、映画で使用されていた楽曲が収録されたアルバムの紹介。


●映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』本予告 | 坂本龍一 最後の3年半の軌跡


今年の2月には、東京都現代美術館で開催された「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」の展覧会も訪れました。下記は、その際のブログです。
●「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」:大規模体感型サウンド・インスタレーション 

2024年5月には、映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』をSAIONで鑑賞しました。下記は、その際のブログです。



展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」01

夏休みの渋谷ヒカリエホールは、親子連れの笑顔と驚きに包まれていました。その理由は、「レオ・レオーニの絵本づくり展」。『スイミー』『フレデリック』『あおくんときいろちゃん』などで知られる絵本作家レオ・レオーニの創作の舞台裏に迫る展覧会です。

本展は3章構成で、彼の絵本に込められたメッセージや、卓越した技法、そしてレオ自身の人生が交差する豊かな世界を体感できる内容となっています。この記事では、見どころと感動ポイントを章ごとにご紹介します。


第1章:テクニック(技法)

レオ・レオーニの絵本には、子どもでも理解できるシンプルなストーリーが描かれていますが、その裏にはプロのアートディレクターとしての技術と感性が詰まっています。
(レオは絵本作家になる前、ニューヨークでアートディレクターとして活躍していました。)

使いこなされた画材と技法の数々
  • コラージュ、フロッタージュ、モノタイプ、スタンピング、手ちぎりなど、複数の技法が駆使され、素材選びにも徹底的にこだわっていました。
  • 特に印象的だったのは「手ちぎりのねずみ」。毛並みの質感を表現するため、胴体だけを手でちぎり、耳やしっぽはハサミで整えるという技術。愛嬌のあるねずみたちが、そこから生まれています。
展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」02
フロッタージュの展示風景


展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」03
ねずみパーツ


紙と色が語る物語
  • イタリアのマーブル紙、日本の和紙、新聞紙やクラフト紙など、レオは世界中の紙を集めて作品に活かしました。
  • モザイクや水彩との重ね使いも見どころ。彼の作品には、単なる「絵」ではなく、テクスチャーの奥深さがあります。

名作『スイミー』の“習作”
  • 現存する原画が失われたとされる『スイミー』。展覧会では、レオが再制作時に描いたと推察される貴重な習作5点が展示されており、彼がどのように作品に向き合っていたのかを垣間見ることができます。
展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」09
『スイミー』の習作



第2章:ストーリー(ものがたり)

技法に支えられた絵本には、普遍的で今こそ必要な「対話」「違い」「平和」のメッセージが込められています。

自分を見つける旅
  • 『スイミー』では「群れの中で自分の役割を見つける」ことが語られ、
  • 『フレデリック』では「芸術や言葉の力」が人々を支える力として描かれます。
  • いずれの主人公も、「他の人と違う」ことがテーマ。周囲と違っていても、それが役割や力に変わるのだと、静かに力強く教えてくれます。

対話と平和の物語
  • 『6わのからす』では、対立を対話によって乗り越えるというメッセージが提示されます。
  • ファシズムを逃れ、5つの国で暮らしたレオの経験が、物語に深みを与えているのは間違いありません。
展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」05
展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」04
『6わのからす』の展示風景


『あおくんときいろちゃん』とブリュッセル万博

展覧会のハイライトとも言えるのが、『あおくんときいろちゃん』と1958年のブリュッセル万国博覧会との関係。人種の多様性をテーマにしたパビリオンの展示が政治的圧力で閉鎖された翌年、レオはこの絵本を発表します。

色が混ざり、新しい色になる——それはまさに、「違い」が新しい価値を生むことの象徴。この1冊に、レオの社会的な信念と希望が詰まっています。

展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」10
レオ・レオーニの年表とブリュッセル万国博覧会についての展示



第3章:レオレオリウム!

絵本とは何か? それはレオにとって「空想の庭=テラリウム」でした。

少年時代の記憶が絵本になる
  • 幼少期、テラリウムをつくってカエルやネズミを飼い、自然とアートを並列に愛していたレオ。
  • 「私の絵本の中の世界は、昔のテラリウムと同じ寸法なんだ」という言葉に、すべてがつながります。
展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」06
第3章の展示風景


記憶の中の図鑑
  • レオは「私は見ること、そして記憶する術を若い頃に習得した」と語り、写生ではなく記憶から描きました。
  • 絵本の主人公たちは、悩み、戸惑いながらも自分を見つけていきます。それはまさしく、人生をかけて“自分探し”を続けたレオ自身の姿そのもの。
展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」07
「絵本の自然採集」セクション
レオの絵本に登場する様々な動植物を採集し、
標本のように展示されていました。

展覧会「レオ・レオーニの絵本づくり展」08
「スイミー・スクロール!」セクション


おわりに:絵本は子どもだけのものじゃない

『レオ・レオーニの絵本づくり展』は、「読み聞かせ」の先にある、大人の「読み直し」にこそふさわしい展覧会です。
  • 社会が分断され、違いを受け入れる力が試されている今だからこそ。
  • レオの絵本に込められた「対話」「共生」「創造」のメッセージは、子どもにも大人にも響くのです。

 「レオ・レオーニの絵本づくり展」は、渋谷ヒカリエホールにて、8月27日(水)まで開催されています。


【関連URL】 

2013年にもレオ・レオーニの展覧会を訪れました。
下記は、その際のブログです。
●High Times R: 『レオ・レオニ 絵本のしごと』:技法の宝庫・手法や素材は主題に依存する。



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